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潮見ヶ岡神社 伝統的な松前神楽を継ぐ、小樽の海を望む神社。

神社外観

数々の作品の舞台となり誰もが知る地域、北海道小樽市。江戸時代までは「蝦夷地」として主にアイヌの人々の暮らしの場であった北海道は、明治政府の大規模な開拓により、その新たな歴史が始まることとなります。

その北海道の道央に位置する小樽で、184年の歴史を刻んできた潮見ヶ岡神社。かつては隣町に鎮座していた神社が、昭和の初期に現在の場所へ遷座。縁のあった神社の資材を譲り受け、明治の頃の建築資材で建てられた社殿を拝むことができます。

今回は、宮司様に直接、この神社の歴史と見どころ、そして伝統として受け継いできた松前神楽について詳しくお話をお伺いしました。

目次

潮見ヶ岡神社とは

境内の雪景色

創建は天保13年(1842)。北海道の大規模な開拓が始まるより少し前に創建された潮見ヶ岡神社は、お稲荷さんとして信仰される五穀豊穣の女神・保食神(うけもちのかみ)や、商売繫盛などの御利益を持つ八重事代主神(やえことしろぬしのかみ)など四柱の神様をお祀りする神社です。

神社のすぐ近くには海が広がり、年に数度クルーズ船の入港を見ることもできる、国内でも非常に稀少なロケーションに位置しています。JR小樽築港駅から徒歩7分、神社のすぐ裏には高速の入り口があるなど、アクセスの利便性にも恵まれており、小樽観光の帰りに参拝される方も多いそうです。

松前神楽をはじめ、地域の伝統文化を受け継ぎながらも、人の集まりが減少してしまった盆踊りを取りやめ、新しいイベントを取り入れた秋祭りを開催するなど、神社として新しい試みにも挑戦しています。ここから先、どうやって神社を今の形で残していくか、多くの神社が抱える問題に直面しながらも、メディアでの発信などを通して神社の魅力を伝えたいと考える神社です。

【潮見ヶ岡神社 特別インタビュー】

潮見ヶ岡神社の狛犬

国指定重要無形民俗文化財に指定されている松前神楽。当時蝦夷地であった北海道を治めていた松前藩には、本州から多くの人々が渡り、出雲系譜の神楽の影響を受けた芸能が蝦夷にも伝わりました。

その後、長い年月を経て本州から伝わったものが北海道独自の特色を持つものとなり、「松前神楽」という独自の神楽として地域に定着しました。そして、現代においても、さまざまな地域で保存会が結成されたり、本州の地域の神楽と共演する機会を設けるなど、北海道内はもちろん、本州にもその魅力を伝えようと尽力しています。

潮見ヶ岡神社と松前神楽の関わり、そして地域の人々と神楽の関わりについても詳しくお伺いしました。

小樽に根付いて184年。四柱の神様とともに地域を見守る。

潮見ヶ岡神社の手水舎
編集部

本日は、北海道小樽市に鎮座されている潮見ヶ岡神社様へのインタビューです。まずは、神社のご由緒からお聞きできますでしょうか。

当社は天保13年(1842)創建の神社です。創建当初は、現在の若竹町ではなく隣町の勝納町(かつないちょう)という町に鎮座していました。その後、同じ小樽市内の龍宮神社という神社と縁があった関係で、龍宮神社が社殿を建て替える際に、解体した資材を当社が受け継ぎ昭和17年に、現在の場所に遷座しました。そういった歴史があるので、当社の社殿の資材は明治2年頃の古いものが多いのも特徴です。ただ、本殿は平成16年に建て替えたものなので、築20年ほどとまだ新しいものです。

編集部

では、お祀りされている神様についてお聞かせください。

まず、保食神(うけもちのかみ)です。この神様は『日本書紀』に登場する五穀豊穣の女神で、「お稲荷さん」として信仰される神様です。五穀豊穣のほか、海運事業や大漁祈願などを御祈願される方もいます。次に八重事代主神(やえことしろぬしのかみ)です。こちらは商売繁盛、厄除けなどに御利益があるほか、芸能面においても御利益があります。そして、藤原三吉神(ふじわらのみよしのかみ)です。この神様は、羽後国(現在の秋田県)の太平城主とされている、原鶴寿丸三吉(はら つるじゅまる みよし)が神格化された神様です。勝負事や学業成就に御利益があるとされています。そして、天香語山神(あめのかごやまのかみ)です。この神様は仕事開運や厄除けに御利益があります。四柱の神様をお祀りし、さまざまな御利益を受けていただくことができます。

伝統的な松前神楽を受け継ぐ。子どもたちやほかの地域との関わりも。

松前神楽の様子
編集部

では、こちらの神社の見どころや特徴についてお聞きできますか。

当社と関わりが深い代表的なものは、まずは松前神楽です。私の父も松前神楽をしていたのですが、当時は小樽で継承している人が4~5人ほどしかいなかったそうです。それを何とか自分たちの力で広げようということで、現在は20名近くの方が保存会に入会して、松前神楽を継承しています。松前神楽は平成30年に国の重要無形民俗文化財に指定され、旧松前藩のお城で行われていた「お城神楽」を起源とするものです。神楽の中では巫女舞や湯立神事(ゆだてしんじ)、獅子舞などが披露されます。

編集部

伝わった当時から現在に至るまで、数多くの方の尽力があったんですね。

かつては、「松前神楽」という名称ではなく、「正月神楽」「五月神楽」「九月神楽」などと呼ばれていました。最終的に、松前藩がこの地を治めたため、「松前神楽」という名称になったと言われています。神楽の演奏には、笛・大太鼓・小太鼓・手拍子・神歌が用いられ、ほかの神楽とは異なり、神楽師や巫女ではなく神職自らが舞い、楽を奏でるのが特徴です。小樽だけではなく、道南地域では函館保存会、松前保存会、福島保存会が大きな母体となり国の重要無形民俗文化財指定を受けました。神楽の披露だけでなく、講演会などに呼ばれることもあるため、保存会に入っている方の人数は相当なものです。一般の方でも、松前神楽をやるわけではないけれど応援してくれる方はたくさんいらっしゃり、とてもありがたいです。

編集部

この地域ならではの伝統ですね。地域の子どもたちも幼い頃から神楽に親しんでいるのでしょうか。

小学校1年生~2年生くらいの頃に保存会に入る子は多いです。いきなり入会するわけではなく、小さいうちから親しむ機会が多く、お神楽の中の演目も子どもたちが舞いやすいようにアレンジしたものがあり、そういった工夫で子どもの頃から松前神楽に馴染んでもらえるようになっています。また、近隣の小学校では年に1~2回ほど授業時間を頂戴して、松前神楽を披露する機会もあります。披露した後には、太鼓や笛などを触ってもらい、少しでも松前神楽を体験してもらえるようにしています。

子どもたちと神楽
編集部

子どもたちにとっても大切な伝統なんですね。

また、小樽はその立地から年に何度かクルーズ船が入港するのですが、今年は4回入港があり、すでに2回入港しています。そのクルーズ船の中でも松前神楽を披露してほしいという依頼があり、今年は春に2回クルーズ船内で披露させていただきました。

編集部

クルーズ船の中でというのはすごいですね!中にもステージがあるということでしょうか。

はい。中には120~130人ほどが入れるような立派なステージがあり、そこで披露させていただいています。秋にもう2回入港予定があるので、そちらで披露するのも楽しみにしています。ほかに、小樽には「潮太鼓(うしおだいこ)」というものがあります。こちらは明治から大正のニシン漁が栄えていた頃、東北や北陸などの本州から、北前船に乗って小樽のニシン番屋などにやって来た人々が叩いていたものが始まりとされているものです。その潮太鼓は2026年で60周年を迎えるため、その記念祭典の中で神楽を披露したり、11月には札幌の教育文化会館で神楽を披露する予定があります。

編集部

さまざまな事業に引っ張りだこなんですね!呼ばれるだけの価値があるということですね。

ただ、松前神楽は北海道内において日本海側の地域には伝承されているのですが、帯広などの地域では松前神楽を見たことがないという方もたくさんいらっしゃり、これからもっと広めていきたいと考えています。

編集部

北海道は本当に広いですから、広めるのも大変ですよね。

ただ、松前神楽は北海道内に留まっておらず、東北6県にも広まっています。岩手や秋田からも披露していただくことがあり、私たちも名古屋や広島などほかの地域へ出向き、石見神楽とともに松前神楽を披露したこともあります。8年ほど前ですが、東京からも呼ばれたことがあり、都内のNHKホールで神楽を披露しました。その際には、10名ほどの人数で太鼓などの道具も運搬して参加しました。

編集部

すごい功績ですね!ただ単に「松前神楽という神楽が残っています」というだけではなく、きちんと「生きた神楽」として残されていることがすごいです。

ありがたいことにきちんと継承させていただくことができています。ただ、こういった無形文化財というのは人から人へ伝わるものですので、技術を教えて継承することはとても難しいんです。50年、60年という期間の間に、次の世代の人々が神楽を舞えるようにしておかなければ継承されないので、これから人口が減っていく中でどのように受け継いでいくかは現代の課題でもあります。札幌の方では、毎月市民会館を借りて、月に一度の頻度で神楽の練習をしているそうです。また、全国の神楽団体が1つとなり、神楽をユネスコ無形文化遺産に登録しようという動きが高まっています。

松前神楽の様子
編集部

ぜひ頑張って登録されてほしいです!おっしゃるように、松前神楽だけでなく、全国さまざまな地域に神楽は残されているので、それらの価値をぜひ世界にも認めてほしいですね。

神楽を一生懸命練習している子どもたちの姿を見ていると、笛の吹き方や太鼓の叩き方1つを見ても「こんな叩き方があるんだ、こういう演奏法があるんだ」と学べることが多いです。我々ももっと頑張らなければと思わされます。

編集部

本当に奥が深いですね。子どもの頃から親しんでいるからこそ、成長してからも真剣に向き合えるのだと思います。

実際に、成長して社会へ出て、小樽を一度出たとしても「また神楽をやりたい」と戻って来られる方もいるんです。そういった伝統文化に親しみを持ってくれている方もいるので、神楽の会へ入る間口も特別なものというイメージにするのではなく、誰でも入れるというイメージにすることを心がけています。

編集部

地域の伝統に小さい頃から親しめる環境が整っているのは、とても素晴らしいことだと思います。現在ではそういった風習が失われている地域もたくさんありますから、ぜひこの先もこの風習が続いていくといいですね。

北海道には、そうした民俗芸能が100以上ありますので、本州の方にも興味を持っていただければ嬉しいです。ただ、実はその中には北海道発祥ではないものもあるんです。

編集部

たとえばどういったものでしょうか。

奈井江町(ないえちょう)という町では、備中神楽が盛んだったのですが、備中神楽は元々岡山県の備中地方に伝わる神楽です。それを現地で見た町の役場の人々が「これをぜひ我々の町でもやりたい」と思い、役場の人が少しの期間そこへ留まり、備中神楽を習い、自分たちの町でも広めたとされています。そんなふうにして本州から伝えられた神楽もたくさんあります。

編集部

本州とのつながりを感じられるのが神楽の魅力の1つなんですね。神楽のお話だけで、いつまでも聞いていられそうなほどお話のボリュームがすごいですね!

神社独自の「神楽守り」を頒布。アクセスの良さにも優れた便利な立地。

潮見ヶ岡神社のお守り
編集部

ホームページでは、御守りのページも拝見しました。さまざまなデザインのものがありますが、こちらのデザインは神社の皆さんで考えられているのでしょうか。

神職で考えているものもあります。特に当社オリジナルのものとしては、松前神楽の獅子舞をイメージした、「神楽守り」というものです。黒地に白い斑点の模様を付け、獅子舞をデザインしたものです。

神楽守り

御朱印も季節ごとにデザインを変えています。切り絵師の方に依頼して作成した切り絵御朱印もあり、海外からの方を含め多くの方にお求めいただきました。

編集部

とてもかっこいいですね!御朱印帳のデザインも北海道の地図があしらわれていて、北海道の神社ならではのものだと思います。では、神社で行われている行事にはどのようなものがあるのでしょうか。

御朱印帳

1月1日の歳旦祭に始まり、どんと焼きや2月の節分祭などがあります。また、6月の例祭では子どもたちの稚児行列や子ども相撲大会なども行っています。

神社近くにある水産高校の生徒さんたちが、魚との触れ合い方や缶詰の作り方を教えてくれることもあります。

編集部

それはとても貴重な機会ですね!

春と秋にはお祭りがあり、特に秋祭りには力を入れています。

秋祭りの様子

元々夏祭りで盆踊りをしていたのですが、少子高齢化により人が集まりにくくなってしまったため、秋祭りに切り替えて、コスプレイヤーの方によるアニソンライブなども開催したところ、若い方にも集まっていただけるようになりました。秋祭りのパネルも神社職員で作成しています。

編集部

ご多忙の中でこれだけのパネルを作るのは大変だと思います。ですが、若い方にも集まっていただけるようになり良かったです!

編集部

近隣には小中学校や高校もあり、若い力が集まる活気ある地域ですね。では、神社の周辺環境についてはいかがでしょうか。

当社はJR小樽築港駅から徒歩7分ほどの場所にあります。また、神社すぐ裏に高速道路の入り口があり、お車でのアクセスもとてもしやすい立地です。小樽観光の帰りなどに夕方頃にご参拝いただく方も多くいらっしゃいます。町中の神社ですが、やはり小樽なので海が近いのが特徴的です。

編集部

とても便利なロケーションに位置されているんですね。北海道は有名なエリアも多いですが、小樽はさまざまな作品の舞台にもなっているので聖地巡礼で来られる方も多そうですね。駐車場も完備されているとのことですが、何台ほどを停められるのでしょうか。

少し詰めていただく形になりますが、50台ほどを停められるスペースがあります。ご参拝される方は車での方が多いですが、大きな行事のとき以外であれば、比較的余裕を持って停めていただけると思います。

今後の展望

神社を継承していく上では、小さなことを一生懸命コツコツと続けていくのが大切だと考えています。伝統的な松前神楽を軸に、神社をもっと知っていただけるようにPRしていきたいと思います。また、現在社務所の改築についても議論を進めているところです。老朽化している部分もあるため、近いうちに生まれ変わった姿をお見せできるよう頑張りたいと思います。

インタビューまとめ

今回のインタビューでは、神社の魅力はもちろん、松前神楽というものの歴史と魅力について本当に多くのことを語っていただきました。宮司様から語られる神楽のお話はとてもいきいきとしたもので、松前神楽がこの地域で、本当に「生きた伝統文化」として継承されていることを感じました。

神楽を通して、近隣地域だけでなくほかの地域との交流も図ることができ、地域活性化にもつながっていることは間違いありません。観光で小樽へ立ち寄った際に偶然見かける、というものではないかもしれませんが、さまざまな事業や式典で舞を披露されているとのことですので、タイミングが合った際には、ぜひ一度は生で拝見してみたいと思います。

北海道は広く、その魅力のすべてを知ることはとても難しいですが、こうした一つの地域に根付いた文化を、これからもたくさん見つけて深く知っていきたいと思います。

潮見ヶ岡神社

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この記事を書いた人

ラボ編集部のアバター ラボ編集部 編集者・取材ライター

歴史と文化遺産に情熱を注ぐ29歳の編集者、山本さくらです。子どもが1人いる母として、家族との時間を大切にしながらも、文化遺産ラボの立ち上げメンバーとして、編集やインタビューを担当しています。旅行が大好きで、訪れる先では必ずその地域の文化遺産を訪問し、歴史の奥深さを体感しています。
文化遺産ラボを通じて、歴史や文化遺産の魅力をもっと多くの方に届けたいと日々奮闘中。歴史好きの方も、まだ触れていない方も、ぜひ一緒にこの旅を楽しみましょう!

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