岡山県倉敷市、豊かな緑の中に佇む由加神社本宮は非常に長い歴史を持つ由加山(ゆがさん)に鎮座しています。岡山後楽園や奈良公園内など、全国に52の分社を有し、その総本宮として人々に親しまれてきました。
由加神社本宮には、江戸時代より四国の金刀比羅宮(ことひらぐう)と共に「ゆが・こんぴら両参り」の風習があり、現在でも遠方から毎年両参りに訪れる方がいるほど有名な風習です。
由加山に現存する木造建築では最古とされる本殿や、国の登録有形文化財に指定されている拝殿・幣殿、備前焼の大鳥居など非常に見どころあふれる神社の詳細を神職様にお伺いしました。
由加神社本宮とは

由加山には、巨岩をご神体とする磐座(いわくら)信仰があり、現在でも本殿裏には巨岩が残されています。かつては朝廷の祈願所として信仰を集め、現在も県内外から多くの人々が参拝に訪れる神社です。
また、境内には学問の神様である菅原道真公をお祀りする天満宮もあり、学業成就、受験合格などを祈願する受験生の参拝者も見受けられます。ほかにも弁財天様や海上安全をお守りするタコ神様、体の痛みを和らげる宝物の小槌など、決して広大とは言えない境内に魅力がたくさん詰まっている神社です。
【由加神社本宮 特別インタビュー】

由加山は厄除けの総本山として、2000年以上の歴史がある山で、由加神社本宮はかつて朝廷の祈願所としても崇められていました。現在も有求必應(ゆうきゅうひつおう)の神様として、全国からの参拝者を温かく受け入れ、地域にも愛されています。
江戸時代より続く両参りの風習は現在にも受け継がれ、瀬戸大橋の開通により交通の便が高まった分、遠方から毎年両参りに訪れる方もいるそうです。今も多数の人々からの信仰を集め、その歴史を伝え続ける神社の見どころをご紹介します。
「ゆが・こんぴら両参り」の1社。江戸時代からの風習を今に引き継ぐ神社。

編集部本日は岡山県倉敷市に鎮座されている由加神社本宮様へのインタビューです。最初に、神社のご由緒からお聞きできますか。



当社は二千有余年の歴史を持つ、神仏混淆(こんこう)である由加山(ゆがさん)に鎮座する神社です。かつて、この山には巨岩をご神体とする磐座(いわくら)信仰からはじまり、時を経て桓武天皇の代からは朝廷の祈願所として崇拝されてきました。そして、江戸時代には備前岡山藩主池田侯は「由加大神様」「権現様」への信仰篤く、正月、5月、9月には藩主自らが参拝に来宮されていました。また、岡山後楽園をはじめ奈良公園内など全国に52の分社を有しており、厄除けの総本山、由加神社の本宮として広く知られています。



こちらが由加神社の総本宮ということですね。



また、由加大神様は有求必應(ゆうきゅうひつおう)=求めが有れば必ず応じる神様として全国各地より参拝者をお迎えしています。江戸時代中期には、諸国からの旅人が四国の金刀比羅宮へ参拝に向かう途中、港の潮の満ち引きを待つ間にこの由加神社本宮へ立ち寄り、災難除け・旅の安全を祈願していたそうです。そして、次第に参拝者の間でそれが習慣化され、「ゆが・こんぴら両参り」という風習が全国に広まりました。



「両参り」というのは、江戸時代から続く風習なんですね。



昔は船でしか本土と四国を行き来することができず、それ故に一時両参りの風習が衰退したこともありました。ですが、現在では瀬戸大橋をはじめ本土と四国を繋ぐ橋ができたため、車や電車などで多くの人が行き来しています。両宮の御利益を求めて信仰の旅が続いています。



とても歴史のある風習なんですね。現在も両参りで来られる方は多くいらっしゃるのでしょうか。



はい。たとえば、名古屋の企業様で毎年両参りに来られている方もいて、近隣だけでなく遠方から両参りに来られる方も数多くいらっしゃいます。また、日頃船舶や漁業等に従事されている方も参拝に来られることが多いです。



瀬戸大橋などの開通により交通の便はとても良くなったと思いますので、ぜひこの先もずっと続いてほしい風習ですね。
日本一備前焼大鳥居、稲荷宮、力石…境内に詰まった魅力を紐解く。



こちらの神社の魅力や特徴的な部分を教えていただけますか。



本殿は今から352年前の1674年に建造されたもので、県の重要文化財に指定されており、由加山に現存する木造の建物では最古のものです。また、岡山は備前焼が有名ですが、当社には日本一備前焼大鳥居が神社のシンボルとして残っています。





拝殿・幣殿には見応えがある彫刻が施されており、お賽銭箱の前にある向拝(こうはい)と呼ばれる正面に張り出した庇の部分、火の神・台所の神様をお祀りする「三宝荒神社(さんぽうこうじんしゃ)」は見応えがあります。備前焼の大鳥居、拝殿・幣殿、向拝、三宝荒神社は令和6年3月に国の登録有形文化財に指定されました。本殿は拝殿・幣殿の後ろ側にあり、一般の方にはご覧いただけないのですが、巨岩を避けるような形で屋根(建物)が作られています。



鳥居の存在感は圧倒的な雰囲気がありますね。



ただ、現在大鳥居は修復工事中で、2027年中には終わると思われますが、現在はその姿を見ていただくことができません。



巨岩というのは稲荷宮(いなりぐう)のことでしょうか。こちらもとても存在感のある岩ですね。



巨岩は稲荷宮(いなりぐう)のことではありません。稲荷宮は稲荷宮で磐座(巨岩)の前に鎮座しています。また、この巨岩は別の場所から持ってきたわけではなく最初からここにあったもので、神様が宿る岩として、人々が信仰し始めたのが当社のはじまりです。





境内には天満宮もあり、菅原道真公もお祀りされているんですね。





道真公は901年、九州の太宰府へ流される途中、この児島の地に数日間滞在されました。そこで知り合った美しいお姫様と「再び戻って来る」と約束をしていましたが、残念ながら太宰府でお亡くなりになられました。そして亡くなられた後に一筋の光がこちらに降り立ったと言われており、そういったご縁から道真公をお祀りしています。



素敵なエピソードですね。学業成就でお参りされる方も多いのでしょうか。



はい。夏頃から推薦入試の合格祈願で来られる方も多く、年末年始の本格的な受験シーズンにはとても多くの方が御祈願に来られます。





ほかにも、縁結びの神様として知られる素盞嗚尊様(スサノオノミコト)をお祀りしています。男性の方は女獅子へ、女性の方は男獅子へお参りいただくことで素敵なご縁に恵まれます。







タコ神様という神様も鎮座されているようですが、こちらはどういったものでしょうか。



こちらは海の安全をお守りする神様として、大綿津見命様(オオワタツミノミコト)をお祀りしています。こちらの地域に下津井という港があり、その港の名産がタコなのですが、漁師の方々が海上での安全と漁へ出た際に獲った魚やタコの供養をしてほしいということで奉納されたものです。





とても可愛らしく、馴染みやすい像ですね。



毎年7月の第三日曜日には魚供養も執り行われており、漁業関係者をはじめ、日頃口にする海の御恵に感謝するため、一般の参拝者からも親しまれています。



境内にはまだまだ見どころがありそうです。力石(ちからいし)というものがあるようですが、こちらはどういった石なのでしょうか。



昔の人々が力自慢として持ち上げていた石です。直径は60㎝ほどなのですが、とても一人では持ち上げられるような重さではないんです。





そうなんですか!?そんなに重いものなんですね…。



参拝者の方が時折動かされることがあるので、それを元に戻すのですがその際にも男性2~3人で動かすのがやっとというもので、本当にずっしりとした重さのある石です。



消痛(しょうつう)の小槌はどういったものでしょうか。



当社にこの小槌がある所以は分からないのですが、昔から当社にある宝物で、関節痛や腰痛など体の痛い部分を小槌でさすると治ると言われています。年配の方がよく使われており、大切な宝物の1つです。





ほかに境内には、子授けの御神木である楠もあります。こちらは男の子を授かりたい場合には、正面から向かって左から右に3回、女の子を授かりたい場合には、正面から向かって右から左回りに3回回ると良いと言われています。こちらは元々御神木としてあったわけではなく、由加山に残る備前岡山藩主のお世継ぎ話から、子宝の御神木として崇められるようになったそうです。ただ、左回り・右回りの風習がいつ生まれたのかは分かっていません。





不思議なご縁がある御神木なんですね。弁財天様もお祀りされているようですね。



こちらの弁財天様には少し面白いエピソードがあります。実は、以前とあるテレビ番組で当社へ俳優の峰竜太さんがご来宮されました。その際に番組の企画で現金30万円を銭洗弁財天様の洗い場で洗い、その洗ったお金でご自身と同姓同名の峰竜太さんという競艇選手に賭けたんです。すると見事に当たり、その番組を見た方が「本当に御利益がある」と思われ、これまで以上に銭洗いする方が増えました。また弁財天にお参りをすると良いといわれる日には、長蛇の列になることもあります。





すごいお話ですね!賭けて実際に当たるのもすごいですが、同姓同名の選手がいらっしゃるというのも奇跡的な確率ですね。また、テレビをご覧になって御利益を求めに来られる皆さんの行動力もすごいですね。



本当にそう思います。弁財天様の周りにはほかの七福神の像もお祀りしています。また、神社としては珍しく境内にアート作品を展示しています。先代の宮司がアート作品に興味がある方で、岡山出身の白石正子さんという芸術家の方にお願いをしてアート作品を奉納いただいています。









どれもとても個性的で素敵な作品ですね。神社でこういったアート作品を見られる場所は少ないと思いますので、貴重ですね。御守りのページも拝見していますが、御朱印帳のデザインがとても素敵です。ネイビーの御朱印帳に使われているのはもしかしてデニムでしょうか。





はい。岡山はデニムが名産品でもありますので、岡山の神社らしさを出したいと思い、デニムを使用した御朱印帳も頒布しています。ほかにも、足腰健康お守りや、金運・幸運を願う黄金お守り、厄除けお守りを頒布しています。









デザインは私たち神職でも考え、お守りや御朱印帳を作ってくださる業者の方と協力しながら、どんなデザインにするかを考えています。







名産、という点ではあんころ餅も有名です。かつて、旅の疲れを癒すために考案されたものだそうですが、伊勢の赤福のような食感です。特にお正月は求められる方が多く、すべて手作りなので作ってくださっている方はとても大変だと思います。





インスタグラムでは真田紐のお守りも拝見しました。



真田紐は有名な戦国武将・真田幸村が考案したとされているものですが、倉敷の名産品でもあるんです。実際に幸村公がこちらへ来たわけではなく、真田紐の製法を学んだ方がここで特産として作ったものだそうです。それを若い方にも伝えていきたいと思い、当社としてもお守りとして頒布しています。これは江戸時代より受け継がれている「倉敷真田紐」というもので、由加山の参道で販売され、当時からとても人気がありました。現在でも、岡山マラソンのメダルの紐に使用されるなど、倉敷の名産品の1つと言えます。







では、神社周辺の環境についてですが、ホームページで拝見する限り、周辺環境は穏やかな場所だと拝見します。



当社は山の中に鎮座している神社ですので、比較的穏やかな環境の中で参拝いただけると思います。神社は緑を背にして鎮座している形で、夏場でも涼しい風が吹き込みます。ご来社には車を利用される方が多く、表参道の第一駐車場をメインの駐車場として利用いただけます。ほかにも駐車場は点在していますが、お正月期間はどこの駐車場も満車になるほどで、長蛇の車の列ができています。
鬼退治伝説にまつわるここならではの節分行事。地域との交流も絶やさずに。



では、神社での行事について詳しくお聞きできますか。



6月30日に行われる夏越の大祓い、秋のお祭りである由加山火渡り大祭などは地域の方々と共に行われています。また、2月には節分豆まき式があるのですが、由加山には鬼退治の伝説があり、由加山付近では既に鬼退治が終わっているために、豆まきの際の掛け声は「福は内」のみで行います。地域の方と共に行う行事としては、その3つが代表的なものです。



節分の掛け声も地域によって違いがあるんですね。



また、当社と鬼退治伝説との関連については、白狐の存在があります。実際の史実では記録が残っていないのですが、伝わっているお話として、当時、征夷大将軍であった坂上田村麻呂がこの児島の地へ来られて鬼を退治しました。するとその鬼は改心した後に、「この先、由加の山をお守りする」と約束し、75匹の白狐になり現在もお守りいただいているというお話です。従って、当社の境内にも75匹の狐を象った神像や拝殿正面の両側には狐が祀られています。





インスタグラムでは、節分祭で鬼のお面を被った方が太鼓を叩かれている写真がありますが、こちらはどういったものでしょうか。



これは由加にある児島瑜伽太鼓という和太鼓チームの方々による奉納演奏です。前述の鬼退治伝説をモチーフにした、すごく迫力ある曲の一つです。結成以来、出演依頼が多く、神社での奉納演奏をはじめ、県内はもちろん県外にも行って演奏されています。また、行事ではありませんが、地域の方との交流という点では、1月・2月の参拝者が多い月を除いて、月に一度ヨガ教室を開催しています。開催する際は、祈祷殿あるいは拝殿を使用しており、祈祷殿ですとだいたい30人ほどの方にお集まりいただいていますが、スペースに余裕を持って行える広さがあります。事前にお申込みいただく必要がありますが、お気軽にご参加いただけます。子どもたちとの交流では、倉敷市内の小学生が実施する山間学習もあります。由加山内に「倉敷自然の家」という施設があるのですが、子どもたちの山の学習などで使われており、ウォークラリーの際には神社の中にも問題があり、子どもたちが神職に質問するなど、子どもたちと触れ合う良い機会となっています。



とても素敵な行事ですね。山の中で自然に触れる機会、神社と触れ合う機会も多くはないと思いますので、そういった貴重な機会があると良い思い出になりますね。
今後の展望
現在、日本一備前焼大鳥居が修復工事中ですが、今から数年後には本殿・幣殿・拝殿の修復にも取り掛かる予定です。県の重要文化財であり、国の登録有形文化財にも指定されている貴重な財産ですので、将来の文化向上発展につながるよう、神職一同、より一層気を引き締めて奉仕に当たっていきたいと考えています。
インタビューまとめ
インタビューを敢行するまで「ゆが・こんぴら両参り」という風習があることを知らず、それが江戸時代から続く長い歴史のあるものだと聞いて驚きました。それが現代まで続いているというのは、それだけ両参りをした方にとって御利益があったからだと思います。
鬼退治伝説にまつわるエピソードは、やはり岡山県の神社ならではのものだと感じました。ほかの地域では聞くことができない、地元ならではのお話はとても興味深いものでした。境内に詰まった神社の魅力は、とても1時間のインタビューでは語り尽くせないものだったと思いますが、神職様には1つ1つ丁寧にお話いただきました。
この先も、江戸時代から続いてきた風習を絶やさず、「ゆが・こんぴら両参り」が次の100年、1000年後にも受け継がれること、そしてこの神社が多くの人に愛され続けることを願っています。
由加神社本宮
住所:〒711-0901 岡山県倉敷市児島由加2852番地
TEL:086-477-3001
URL:https://yugasan.or.jp/








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