神社と地域は、いつの時代も切り離せない関係にあります。地域の方々の奉賛や、神事への協力、そして神様を大切に思う心が、多くの神社を今日まで支えてきました。神社は、神様への奉納や地域の皆さまのために神事を執り行い、地域の方々もその思いを受け取り、神社と神様を守る存在であり続けてきました。
そんな地域と神社の在り方を、学問の面から考える神社が、香川県高松市に鎮座する宇佐八幡宮です。神社と地域産業、教育機関が連携した「神産学連携」をテーマとし、八幡宮の総本宮である大分県・宇佐神宮より神様を勧請し、創建から約800年の歴史を誇る由緒ある神社です。
こちらの宮司は、宇佐八幡宮だけでなく氏子地域内に存在するすべての神社に奉職され、さらに週末は都内の早稲田大学のキャンパスで助手として学生の皆さんと共に、神社を中心としたまちづくりについて研究されています。香川と東京と行き来しながら、大学で研究されたことを地域へ還元し、神社のお祭りや行事に、もっと多くの方が興味を持てるよう、「神社の衣替え」も試みています。
2026年現在、宇佐八幡宮は3年にわたり実施される創建800年祭の中年(なかどし)であり、これまでの800年を振り返り、次の800年へ向けて、新たな歴史が始まろうとしています。
宇佐八幡宮とは

創建は、現在から約800年前の嘉禄年中と伝えられ、八幡様をはじめ三柱の神様をお祀りする神社です。神社の目の前には小学校や幼稚園、保育所などがあり、神社は子どもたちが学校帰りなどに気軽に立ち寄れる場所として親しまれています。
氏子圏をはじめとする地域との結び付きが非常に強い神社であり、多くの神社で宮司が指揮を執る例大祭においても、神社の創建と縁のある「神人(じにん)」や「装束家(しょうぞくけ)」と呼ばれる地域の人々が指揮を執っており、これは全国的にも非常に珍しいことです。
子どもたちへ向けたワークショップの開催や、お祭りでのキッチンカーの出店など、単なる「神社のお祭り」ではなく、地域の方にどう楽しんでいただくかを考え、来て楽しめる工夫を凝らしています。
【宇佐八幡宮 特別インタビュー】

JR高松駅から車で10分、最寄りバス停からは徒歩2分と、アクセスの利便性にも優れた立地の宇佐八幡宮。子どもたちの黄色い声が日常的に聞こえる環境で、子どもたちにとってもこの神社は、日常の中にいつもあるものであり、知らず知らずのうちに心の拠り所となっているはずです。
今後は、神産学連携、神社の衣替え、新氏子圏の構築など、歩みを止めることなく、新しい時代に向かって進み続ける、革新的な神社です。
地域に支えられ、創建約800年の歴史を次の時代へ。

編集部まず、こちらの神社のご由緒からお聞きできますでしょうか。



現在、ちょうど創建800年祭を実施しているところで、現在から約800年前、嘉禄年中(1225年~1227年)の間に創建されたと記録が残っています。そのため、800年祭も2025年~2027年の3年をかけて実施しており、今年はちょうど中年に当たります。神社の由緒としては、現在の大分県の宇佐神宮より神様をご勧請した神社であり、大分県より瀬戸内海を渡り、2艘の船でこちらへやってきたと伝わっております。その船でやって来た一族を「神人」と書いて「じにん」と呼び、彼らが最初にたどり着いた地で、宿の世話や装束を整え直してもてなしたと言われている一族を「装束家」(しょうぞくけ)と呼びます。その方たちが、お宮を建て、いくつかの変遷を辿った後、現在の場所に遷ってきたと言われています。現在でもその由緒を継いで、神社で最大のお祭りである秋季例大祭では神人の方々が神事の指揮を司っています。そして、装束家の方たちが、獅子舞や飾り船、小奴、太鼓台などの練り物の行列を統括しています。通常、神社のお祭りというと、宮司が指揮を執ることが多いですが、当社では創建の由緒に関連の神人、装束家の方々が指揮を執るのが特徴的です。氏子圏は、神社のある香西、鬼無(きなし)、下笠居(しもかさい)地区となります。その範囲にある神社を取りまとめる総氏神が、この宇佐八幡宮です。地区内の神社は、すべて私が奉職しています。



すべてをお一人で奉職されているとはすごいですね!お忙しいと思いますが、地域の方にとっては同じ方に取りまとめていただけるのは、安心感があるかもしれませんね。
宮司兼大学助手。神社と地域の連携を考え続ける神社。





では、こちらの神社の特徴や魅力をお伺いできますか。



他と大きく異なるのは、私が神社の宮司でありながら大学で助手としても活動しているという点です。



宮司と大学の先生ですか!?詳しくお聞きできますか。



現在、週末は香川で宮司として勤め、平日は早稲田大学の建築学科で助手として勤務しています。平日と週末で香川と東京を往復する2拠点で生活しています。主に都市計画を専門としており、神産学連携として、神社と地域産業、そして教育機関が連携してまちづくりを行う、という取り組みを「ReGENE」という学生団体と共に実践しています。そういった点が、当社の最大の特徴だと思います。地域産業や教育機関を巻き込みながら、これまで受け継がれてきた神社の行事などでも新しい試みを実施したり、多くの方に集まっていただけるような工夫をしています。



具体的にはどういった行事をされているのでしょうか。



この地域は、もともと塩田があった場所です。その関係から塩田の神様である塩竈神社が宇佐八幡宮の境内にあります。春祭りとして行われる春市立祭(はるいちたてさい)は、地域の伝統文化を伝えるためのお祭りでもあるため、その神社の前で実際に塩づくりを行っています。地元の海水を汲んできて、オリジナルの塩竈を作り、お祭りの当日に焚火をして、何時間も煮炊き上げて塩を作るという取り組みを行っています。





地域の高校生などがボランティアとして参加してくれ、当日の煮炊き上げを手伝ってくれています。また、塩竈は地域の企業の方に作ってもらうなど、地域との交流も図ることができる貴重な機会です。塩田がなくなってから半世紀以上経つので、現在の子どもたちは当時のことを全く知りません。ですので、こういった機会を体験学習のように捉えていただき、地域の伝統を学んでいただければと思います。







とても珍しい体験ができる神社なんですね!ご自身も2拠点での活動ということで、とても大変だと思いますが、この地域ならではの体験ができる点は子どもたちにとって良い刺激になると思います。



私が宮司になってから6年ほどですが、その間にさまざまな新しいことを試みてきました。そういったことも、地域の方が温かく見守ってくださるからこそ成り立っているのだと思います。
伝統を守りながら、神社もアップデートを。





先ほど、創建800年祭のお話がありましたが、800年祭では具体的にどういったことが行われるのでしょうか。



まず、このお祭りをやろうとなったとき、地元の方には一度盛り上がって終わり、というお祭りではなく、これまでの800年を振り返りながら次の800年に向かっていけるようなお祭りにしたいと伝えていました。この先、継続していけるような持続可能な体制を作ることを大切にしています。お祭りでは、もともと年中行事として行われていた夏越しのお祭りや秋季例大祭のほか、今ではほとんど人が来なくなったようなお祭りも形を変えて1つずつアップデートしていくことを目標にしました。従来の形にこだわらず、現代のライフスタイルに合わせてお祭りの形を変え、地域の皆さんに親しみを持っていただけるようなものにしたいと思っています。たとえば、夏越のお祭りでは、キッチンカーが来てくれて、多国籍の食べ物を楽しめるイベントや、ハワイアンダンスの披露などもあり、神社という日本の伝統的な場所でありながら、世界の雰囲気を味わえるイベントも行っています。



昔ながらの形にこだわり続けるのではなく、現代に合わせて変化させていく、これも伝統を守るためには必要なことかもしれませんね。



また神社では大きく3つの目標を掲げています。1つは神産学連携を進めること、2つ目は先ほど話したように行事などの形をアップデートして、現代のライフスタイルに合わせること。そして3つ目は、新たな氏子圏を構築していくことです。神産学連携においては、先ほどお話した内容に加えて、小学校などの学校教育機関との連携も多くあります。夏越しのお祭りでは、地元の教育機関8機関と連携し、讃岐提灯を描いてもらい、境内に600基ほど飾りました。





ほかにも、各季節のお祭りの際には小学生の女の子たち4人に、巫女さんとして浦安の舞を奉納してもらっています。そうした交流を通して、子どもたちにも神社という場所がどんな場所であるかを知ってもらえればと思います。







地域によっては、子どもたちは神社がどんな場所であるかを知らない所もあると思います。ですがお話を聞いてみると、多くの神社で人が集まりやすい行事が行われているので、ぜひ地域に広く知ってもらいたいですね。



ほかに、地元の小学生にオリジナルの御守りを作ってもらうワークショップも開催しました。高松に保多織(ぼたおり)という伝統的な織り方があり、それを参考に作ってもらいました。小学3年生の児童たちに作ってもらったのですが、時間をかけてゆっくり教えていくと、とても綺麗な作品ができあがり、小学生でもここまでの物を作れるのかと、私も驚きました。







行事のアップデートは、私は「神社の衣替え」とも呼んでいます。もともと、神社の行事というのはその多くが農業の暦に合わせて行われてきました。春市立祭であれば、田植えの時期に合わせて農機具を購入するために市が立つため、その名前になった経緯があります。ですが、現代では農業に関わる方もぐっと減少し、農家として本格的に農業を行うというよりは、定年退職後に自分ができる範囲で行うのが一般的になりました。ですが、それだけではなく、現在のライフスタイルに合った形にお祭りを変えていき、みなさまに神社に興味を持っていただけるようにしていく、という考え方です。



「神社の衣替え」素敵な表現ですね。昔ながらの形を守ることにこだわり続けるのではなく、時代に合わせた形を追求することは、特にこれからの時代には必要な考えだと思います。



新しい氏子圏の構築については、現在、氏子圏は3町にわたっており、地域の人口は2万人ほどです。ですが、それくらいの範囲になると帰属意識もあまり強くなく、氏子ではあるけれど宇佐八幡宮のことはほとんど知らない、訪れたことがないという方もたくさんいます。そういう方へ向けて、宇佐八幡宮はお祭りも盛んで、地域に開けた神社であることを伝えたいです。また、氏子圏を超えてもう少し広い範囲で、神社に縁のあった方を集めて、神社に関心を持っていただけるようにしたいです。



どこの神社も、この先の未来に神社をどう残していくかについてはとても知恵を絞られていると思いますが、こちらの神社もまた未来を見据えた神社なんですね。
「奉納」の思いを忘れない、人々の思いがこもった神事。



ホームページやインスタグラムを拝見しましたが、社殿がとても立派ですね。境内には摂社・末社も多数あるようですが、広さもあるのでしょうか。



町中の神社というわけではないので、境内もそれなりの広さがあります。神社は、高さ20mに満たないほどの小さな山の頂上にあり、それがそのまま境内になっており、来ていただければ開けた空間でくつろいでいただけると思います。実はこの場所は、一時期お城にもなっていた場所なんです。



そうなんですか!それだけの広さがある場所なんですね。



藤尾城というお城で、神社として成立した後、良い土地だということで地元の豪族が居城を造りたいと考え、一度神社の場所をほかへ遷してお城を建てたそうです。ですが、攻め滅ぼされてしまい、もう一度神社に戻ったそうです。また、境内社のお話になりますが、境内にある白峯神社では、崇徳天皇をお祀りしています。この崇徳天皇は、日本の三大怨霊に数えられるくらいの怨霊として知られています。かつて都から讃岐の地へ流され、生涯を讃岐で終えることになった苦労の多い方で、こちらでの最期は穏やかなものだったそうですが、無念が残っていると言われています。





また、随神門には通常、神様に仕える随身様と呼ばれる矢大臣、左大臣がお祀りされているのですが、当社では源為朝・源為義をお祀りしており、この2人が最後まで崇徳天皇のそばに仕えていたそうです。ずっと見守っていた姿が、現在も境内に残っているというのは貴重かと思います。





詳しくありがとうございます。神社での行事で最も大規模なものはやはり秋季例大祭でしょうか。



そうですね。冒頭にお話したように、当社の秋季例大祭は創建と縁のあった人々がメインとなり行われます。また、練り物の数がとても多いことも特徴です。神輿3艘に続いて獅子14連、奴2連、太鼓台、元船、小船、という19地区から出る19連の練り物が行列を成すので、地元総出のお祭りとなります。







獅子だけで14連ですか!それはとても多いですね。ほかでは聞いたことがない数字です。地域外からも見に来られる方はいるのでしょうか。





最近は少し観光客の方も増えましたが、基本的には地元の方のお祭りという印象です。もともと、地元の方々も外向きに行っていたわけではなく、神様への奉納という意識が強く、内向きに行われていたものを最近になって外へ向けて発信するようになったという感じです。この地域の方々は神事をとても大切にしているので、外へ開いていくときにも、「奉納」の意味がなければ獅子舞を振りたくないという方もいるほどです。たとえば、地元の観光協会と連携して行事を行うとき、PRを兼ねてお祭りの一週間ほど前から地元のショッピングセンターなどで獅子舞を奉納するのですが、それもただ店内で獅子を振るだけの興行になるのならやりたくない、という方もいます。ですので、きちんと店内に祭壇を作り、宮司が清祓いをし、神事として獅子舞を奉納するという形にしています。やはり本質をどこに置くか、ということを皆さん意識されていると思います。







それだけ皆さん、神社や行事、そして神様への思いが強いんですね。きちんと神事として遂行したいという思いがあるのは、とても素敵なことだと思います。そういった大人の姿を見て育った子どもたちも、将来そういう意識を持って神社の行事に参加してくれると思います。



ありがたいことです。お祭りには、大学の後輩である「ReGENE」の学生も協力してくれており、カメラが得意な学生がお祭りの様子や地域の方たちを撮影するなど、とても賑わいがあります。



インスタグラムでその写真を拝見しました!地域の皆さんの表情がとても明るくて、本当にお祭りを楽しまれているのがよく分かります。


今後の展望
800年祭でも掲げている、神産学連携・神社の衣替え・新氏子圏の構築は、この先も神社の目標として進めていきたいと考えています。2026年は、800年祭の中年にあたるため、これまでの800年の歴史と、800年祭の活動内容が伝わるようなプレゼンボードを用意し、これまで個別に発信していたものをまとめて共有できる場を作っていきたいです。
その先駆けとして、高松城址の披雲閣という重要文化財の建物にて展覧会を実施しました。これからも様々な場で展示会ができるように準備しているところですので、地域外の方にもぜひ見ていただきたいです。瀬戸内海のネットワークを活かしながら、地域の神社同士のつながりを今よりももっと作っていきたいと考えています。
インタビューまとめ
今回は、宮司に直接お話をお聞きし、この神社への思いを語っていただきました。インタビュー内でもお話いただいたように、宮司自ら神社と地域の連携について考えられ、大学という場で研究をされていることには驚きました。香川と東京という、決して近くはない距離の往復は大変なことだと思いますが、神社のことをお話いただく宮司の表情はいきいきとされ、大変な中でも楽しさを見出されているのだと感じました。
宮司が神社と地域を思われる姿、そしてその思いが氏子地域の皆さまにも伝わり、行事に参加される方々も「神様への奉納」の思いを忘れずにいられるのだと思います。800年後の姿を、今生きている私たちが見ることはできません。ですが、きっと1000年先にも、今と同じ姿をこの地に留めていることでしょう。
宇佐八幡宮
住所:〒761-8012 香川県高松市香西本町465番地
URL:https://www.usahachimangu.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/usahachimangu_kagawa/









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