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仙巌園 桜島を望む、薩摩の迎賓館

仙巌園 桜島を望む、薩摩の迎賓館

鎌倉から江戸時代まで、実に700年にわたり南九州を統治し続けていた島津家。その島津家の別邸として仙巌園は築かれました。

日本のみならず海外からの賓客をもてなす場所として利用され、現在では世界文化遺産に登録されている周辺一帯と合わせて鹿児島の観光名所となっています。

そんな迎賓の場所として多くの偉人に愛された仙巌園の魅力を、スタッフの方にお聞きしました。

目次

仙巌園とは

仙巌園とは

仙巌園は1658年(万治元年)に島津家第19代の島津光久が築いた別邸です。その敷地からは桜島や錦江湾を望むことができ、その雄大さは現在も地元の方のみならず観光客の方からも高く評価されています。

幕末以降は、主に国内外からの賓客をもてなすための場所としても利用され、薩摩藩の迎賓館のような役割を果たしていました。また、廃藩置県の際には居城であった鹿児島城が政府の管理となり、その頃には島津氏の本邸として利用されていた時期もありました。

園内には「御殿」と呼ばれるお屋敷があり、来賓をもてなす際には主にその御殿を使用していたとされています。国内の著名人では西郷隆盛や幼少期の篤姫が、海外ではロシアの皇帝ニコライ二世やイギリスの国王エドワード八世なども訪れていた記録があります。

【仙巌園特別インタビュー】

【仙巌園特別インタビュー】

①偉人にも愛された、迎賓の館

編集部

仙巌園の一番の見どころはどこでしょうか。

園内職員

やはり御殿は見どころですね!当時のお殿様がどういった暮らしをしていたのかよく分かりますし、謁見の間と呼ばれるお部屋では、ニコライ二世やエドワード八世などももてなしていたようです。

編集部

かなり著名な方も訪れていたんですね!

園内職員

そのようです。ニコライ二世については、彼がまだ皇太子の頃に訪れていた記録があり、その後皇帝になった際に当時のお殿様は彼に薩摩焼の壺を送りました。その現物は現在ではロシアのエルミタージュ美術館に収蔵されています。この薩摩焼の壺のオリジナルは薩摩焼陶芸の名跡である12代の(ちん)壽官(じゅかん)という人物が作ったのですが、その複製をひ孫にあたる15代の(ちん)壽官(じゅかん)が作り仙巌園で展示しています。

②中国との関わりが深い仙巌園

②中国との関わりが深い仙巌園
編集部

「仙巌園」という名前はこれまでのエピソードにはあまり関連性がないように思われますが、名前の由来は分かっているんでしょうか。

園内職員

仙巌園は、その昔琉球を通じて東南アジアや中国と交流がありました。そのため、中国文化の影響を受けており「仙巌」という名前は中国の地名から来ているそうです。中国の江西省に「龍虎山仙(りゅうこざんせん)(がん)」という地名があり、その風景に似ていることから名付けられたと言われています。

編集部

中国文化の影響を色濃く受けているんですね。

園内職員

はい。他にも御殿内に「釘隠し」というものがあります。日本の和室などにおいて、長押(なげし)(日本建築で柱同士の上部などを水平方向につなぎ補強するために柱の外側から打ち付ける化粧材)と柱を繋ぐところに釘を打つのですが、その釘がむき出しの状態では見た目が悪いので、カバーをして釘を隠すという装飾品が御殿内にあります。その模様の1つに蝙蝠(こうもり)があるんですが、蝙蝠は中国では縁起がいいとされているそうなので、そういった部分でも中国文化の影響が色濃く出ていますね。

編集部

なるほど。やはり地理的にもアジアとの交流は盛んだったのですね。他にも中国文化の影響が表れている部分はありますか。

園内職員

中国を源流とする「(きょく)(すい)(えん)」という催しがあるのですが、園内にはそれを執り行うための「(きょく)(すい)(にわ)」が作られています。仙巌園でも毎年4月には曲水の宴を開催しています。

③世界遺産にも登録された周辺景観

③世界遺産にも登録された周辺景観
編集部

この場所はいつから観光名所として整備され公開されているんでしょうか。

園内職員

かつて仙巌園は鹿児島市が管理運営していた時期があり、その頃は「(いそ)庭園(ていえん)」という愛称でした。その後管理会社が移り1957年(昭和32年)から現在の形で公開されています。

編集部

この場所を観光地として残していこう、というきっかけは何かあったんでしょうか。

園内職員

鹿児島市管理の時は市民の方の憩いの場として、というのが主な目的だったと思います。現在ももちろんその気持ちは受け継がれており、日本のみならず海外からのお客様にも楽しんでいただきたいと思っています。

編集部

仙巌園はもちろん、周辺の景観もかなり美しい景色だと思われますが、周辺景観について何かエピソードはありますか。

園内職員

仙巌園の周辺一帯が2015年に世界文化遺産に登録されました!そういった特別な場所なので歴史的なストーリーや庭園、周辺の景観を守っていこうという意識は強いです。

編集部

そうなんですね!世界遺産となると、国内だけでなく海外からのお客様も多く来られますか。

園内職員

ええ、地域問わず来られます。最近では欧米の方が増えています。来られる方は日本の歴史などについてよくご存知の方もいます。薩摩切子工場では職人が実際に薩摩切子を作っている様子も見ることができるので、そういった点を気に入っていただけることも多いようです。

編集部

地域の方も同様に一年を通して来られますか。

園内職員

ええ、たくさん来られますよ。仙巌園には年間入場券もあるんですが、それをお持ちの方はよく来られますね。そうではない方でも四季折々のイベントを楽しむ方や、園内の種類豊富な植物を楽しみに来られる方もいらっしゃいます。そんな風に、仙巌園を自分の家の庭のように楽しんでくれるのが、私たちも一番嬉しいですね。周辺一帯は世界遺産ですが、そういった場所を気軽に利用していただけるのも地元の方ならではだと思います。

編集部

年齢層は老若を問わず、という感じでしょうか。

園内職員

普段は50代~60代というようなシニア世代の方が多いです。歴史を知っている方や、散歩がてら休憩に来られる方もいます。夏休みなどの長期休暇の時期になると、ご家族連れの方も多く来られますよ。

編集部

学生の方も多く来られるんですね。

園内職員

ええ、そうですね。夏休みだと小中学生は入場無料ですし、鹿児島の歴史などに絡めた自由研究向けの体験や展示なども行っていますので、そういったものを見に来られるご家族連れの方も多いですよ。「伝統文化体験施設」という施設も新しくできて、薩摩切子のかけらを使ったアクセサリー作りの体験などもできます。文化に触れながら楽しく学べるのも特徴ですね。

④欧米の列強に並ぼうとした歴史の跡

④欧米の列強に並ぼうとした歴史の跡
編集部

他に園内で特別な場所はありますか。

園内職員

やはり、仙巌園から望む桜島ですね。晴れた日は特に美しいですが、そうでない日でも園内随一のフォトスポットとして、皆さんお写真を撮られていきますよ。また園内には1857年(安政4年)に建設された反射炉跡も残っているんです。

編集部

反射炉と言うと、具体的にどういったものでしょうか。

園内職員

鉄を溶かして大砲を作る施設です。当時は幕末で島津家第28代の島津斉彬には、日本・薩摩をもっと強く豊かにしたいという思いがあったようです。そこで、西欧ですでに多く建設されていた反射炉を作り日本の工業化などを進めていこうという思いがあったのだと思います。現在では、基礎の石垣部分しか残っていないのですが、石垣と聞くとやはりお城を思い浮かべる方が多いですよね。なので、反射炉跡の近くに「鹿児島世界文化遺産オリエンテーションセンター」という施設が建てられています。そこで当時の反射炉の模型や世界遺産に登録されるまでの流れなどを紹介しており、当時の人々の試行錯誤などを感じていただくことができます。

園内でのイベント

園内でのイベント

仙巌園で最も大きなイベント、菊まつり。毎年11月に行われ、気候も良い時期に園内を約1万5000本の菊が彩ります。地元の方はもちろん、観光客の方も見に来られる方は多数。多くの菊が咲き誇るその光景は、なかなか見応えがあり、毎年高い評価を得ています。

猫神社

他には少し変わったお祭りも。仙巌園には「猫神社」と呼ばれる猫を祀った祠があります。戦国時代に島津家第17代の島津義弘が、猫を戦場に7匹連れて行き、猫の瞳孔の開き具合で時間を推測していたと言われています。そして無事に帰ってきた2匹を祀った祠とされており、全国の愛猫家の方がたくさん訪れます。2月22日の「猫の日」には愛猫長寿祈願祭というものも開催しています。祈願祭には、20名ほどの方が参列され、猫の匹数では60~70匹ほどが祈願されています。なお来園が難しい方のために代理祈願も承っています。

今後の展望について

2025年春に最寄りに「仙巌園駅」という新しい駅が開業予定。これにより九州新幹線が停まる鹿児島中央駅からのアクセスも格段に良くなるため、さらに多くの方に来て楽しんでいただきたいと考えています。海外からの方はもちろん、国内からの観光客の方も新しい体験をしてもらえるよう、園内でも様々なイベントを実施しています。

鎌倉の世から連綿と続く島津家。その島津の、そして薩摩の顔として多くの偉人が利用してきた仙巌園。その足跡は今も色濃く残り、園内のいたるところにかつての偉人たち、そして島津家が活躍していた面影を確認することができます。その建築技法や海外との関わりなど、当時の日本が国の外へも目を向けていたことが分かります。美しい桜島をはじめとする周辺景観とともに、貴重な海外交易の場となったこの仙巌園に足を踏み入れるのも良いのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

ラボ編集部のアバター ラボ編集部 編集者・取材ライター

歴史と文化遺産に情熱を注ぐ29歳の編集者、山本さくらです。子どもが1人いる母として、家族との時間を大切にしながらも、文化遺産ラボの立ち上げメンバーとして、編集やインタビューを担当しています。旅行が大好きで、訪れる先では必ずその地域の文化遺産を訪問し、歴史の奥深さを体感しています。
文化遺産ラボを通じて、歴史や文化遺産の魅力をもっと多くの方に届けたいと日々奮闘中。歴史好きの方も、まだ触れていない方も、ぜひ一緒にこの旅を楽しみましょう!

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