「入り鉄砲に出女」この言葉は日本人なら一度は聞いたことがある言葉だと思います。ですが、歴史の授業で触れたことはあってもそれを行っていた関所という場所について詳しく知っている人はあまりいないのではないでしょうか。平和な時代だったと言われる江戸時代。その平和は、関所の厳しい取り締まりによって保たれていた一面もあります。幕府によって大名を統制し、武力を用いた反乱を防ぐための政策として実施されていた「入り鉄砲に出女」。
今回は、東海道の裏街道と呼ばれる場所に位置する気賀関所をご紹介します。東海道三大関所の一つとして非常に厳格な取り締まりを行っていたと言われるこの関所について、当時の役割とエピソード、そして現代で行われている様々な取り組みについてお伺いしました。
気賀関所とは

今から424年前の慶長6年、気賀関所は設立されたと言われています。当時の設計図を忠実に再現し、荷物検査を行った本番所や女性を調べる「女改め」を行った向番所(むかいばんしょ)、そして関所では珍しい牢屋など、当時の様子をとても詳しく知ることができます。現在の建物が建設されたのは1990年(平成2年)ですが、その姿は江戸時代当時を思わせるもので、訪れれば江戸の世に来たような感覚を味わうことができる場所です。
そんな400年以上前の時代を体感できる場所ですが、様々な年代の方に訪れていただけるよう多彩なイベントを実施しています。親子で楽しめるイベントなど、どの時期に来ても楽しめる施設です。年間のうち入所無料の日もあり、地域の方のみならず県外からも訪れやすい工夫がされています。自然豊かな周辺環境に恵まれた場所で江戸の風を感じられる貴重な施設です。
【気賀関所 特別インタビュー】

着替え体験、七夕祭りやお月見会、節分の豆まきなど、年間を通して様々なイベントで賑わう気賀関所。日本の伝統行事や文化に関連したイベントも多く、教科書で学ぶ「関所」という場所を実際に体感し、楽しみながら歴史を学べる場所です。
穏やかな自然に囲まれた、東海道の重要な関所。

こちらは静岡県浜松市にある関所ですね。まず、関所の役割についてどういうものであったかお聞きできますか。



はい。江戸幕府を確立し全国を統一・安定させる為にいくつかの目的で関所を創立しました。家康は有力な大名の勢力が強くなり自分を攻めてくることを何よりも恐れていました。そこで大名の奥様や姫様を人質に取り、江戸に不正な物質や武器を持ち込ませないという対策を取り大名の反乱を防ぎ都市の治安維持と統制を目的としていました。江戸時代には全国で53箇所の関所があり、その役割は主に人質としている女性が江戸から出ないように見張ること、鉄砲が江戸に入らないよう見張ることでした。これがいわゆる「入り鉄砲に出女」です。この気賀関所は慶長6年(1601年)に設立されたと言われています。



静岡県には他にも関所があるのでしょうか。



そうですね。東海道三大関所と呼ばれるものがあり、新居関所、箱根関所、そして東海道の裏街道ということでこの気賀関所も含まれています。



では、この関所の魅力や特に見てほしい特徴についてお聞きできますか。



まず特徴としては江戸時代の設計図を忠実に復元している点です。そのため、当時の歴史の情緒を感じることができる施設となっており、江戸時代にタイムスリップしたような気分にさせてくれる所です。周辺景観は、周辺を奥浜名湖というのですが、奥浜名湖の自然豊かな山々に囲まれ、近くには天竜浜名湖鉄道がとおり、電車が通る音や鳥のさえずり、美しい花々も感じることができる場所です。歴史ある町の象徴であるこの関所をはじめとする歴史的・文化的資源の保全にも力を入れ、地域観光の拠点でもある場所です。



賑やかな町中というよりは自然が感じられる穏やかな場所なんですね。関所内で展示されているものにはどういったものがあるのでしょうか。







当時警備のために用意された三つ道具槍立や、姫様が乗っていた駕籠(かご)、大名が使用していた道具や置物などを展示しています。関所創設後期になると関所破りをする人もいなくなり装飾的なものとして威厳を示すために置かれていたと考えられています。また、本番所、向番所など各部屋には当時をイメージしやすいよう人形も飾っています。姫様館(ひめさまやかた)に展示している駕籠は現在でも姫様道中というイベント時に実際に使用しています。







現在も使われているんですね!江戸時代は何千年も昔、というわけではありませんが、我々からすると教科書の中の出来事ですから、その時代のものを綺麗な状態で見られるというのはとても貴重ですね。ホームページで駕籠のお写真を拝見していますが、とても小さいように思います。当時の物を忠実に再現したわけではないと思いますが、実際にこれくらいの大きさだったのでしょうか。



それは皆さん仰られます。人が入るには小さいのではないかと思われるのですが、やはり当時の人は現代人よりも小さかったようで、おおよそこれくらいの大きさの駕籠に乗っていたと思われます。姫様道中は昭和27年から続いている伝統行事で毎年3月~4月頃に行っています。道中では江戸時代に公家や大名の姫様が好んで通った東海道の裏街道、通称姫街道と呼ばれる街道を通った絢爛豪華な姫様の行列を再現したものです。歴史に基づいて100名以上の大行列や姫様、腰元など様々な役柄に扮した人々が行列を成すお祭りです。





そうなんですね!姫様道中は時間にするとどれくらい開催されているのでしょうか。



だいたい10時~15時半くらいまでです。当日は近くの河川敷に出店が出たり、関所の隣にある田園空間博物館でマルシェを開催したりとても賑わうイベントです。



昭和27年からというと戦後すぐですね。とても長く続いているイベントなんですね。内容も面白そうですし、ぜひ多くの方に見に来ていただきたいですね!
関所では珍しい“牢屋”も復元!歴史を体感できる身近な施設。



貴重な施設だと思いますが、地域の方も多く来られるのでしょうか。



そうですね。歴史好きな方で何度も来ていただいている方もいます。他に、近隣の幼稚園の子どもたちや小中学校の生徒さんも総合的な学習の一環、フィールドワークなどで活用していただいています。歴史の授業で学んでいただくことはもちろんですが、こういった施設があるのでぜひ多くの学校にご利用いただければと思います。



なかなか歴史の授業で関所について学ぶ機会ってないですよね。もちろんそういった施設があることは学びますが、具体的にどんなことをしていたのか、どんな役割を持っていたのかなど詳しいことは知らないまま、という方が多いと思います。ですが、お話を聞いてみるとイベントもたくさん実施されていますし、来て楽しめる場所だと思うので、皆さんにも気軽に来てほしいですね!外国人の方が来られることはあるのでしょうか。



多くはないという印象です。英語のパンフレットもありますし、インスタグラムで発信する際には英語でのハッシュタグも付けるなど工夫しています。今後は海外の方にももっと来ていただきたいと思っております。日本の歴史好きな方にはきっと面白く喜んでいただける場所だと思います!



来所された方から特に良かったと言われる部分はありますか。



向番所(むかいばんしょ)の中に牢屋があります。関所に牢屋があるのはとても珍しいのです。皆さんとても興味深くご覧になられます。



他の関所には牢屋があまりないということですが、なぜこの気賀関所には設置されていたのでしょうか。



それがハッキリとした理由は分からないんです。私も同じ疑問を持ち様々な資料を見てみたのですが、当時の設計図に書かれていたということしか分からないんです。どのように牢屋を使っていたのかも明記されておらず、どんな人がどんな罪を犯して牢屋に入っていたのかも記録がありません。この牢屋の存在については具体的なことが何も書かれていないというのが実情です。



では、来所される方の年齢層はどれくらいでしょうか。



お子様からご年配の方まで幅広い年齢層の方にご来所頂いております。ただ、この場所自体を知らないという方もいらっしゃるので、PRしていきたいです。



お城などもそうですが、歴史を感じられる場所は探せば意外と身近にあると思うので、ぜひこの関所にも足を運んでほしいですね!



そうですね。私たちも多くの方々に利用していただきたいと思い、インスタグラムやホームページで発信活動を頑張っているところです!関所内では着替え体験や呈茶も行っており特に甲冑は男の子に人気です。ぜひ体験してみてください!
ここならではの体験イベント多数!県民の日は”県外の方“も入所無料!



では、先ほどの姫様道中以外にこの関所ならではのイベントなどはありますか。



イベントではないですが、7月1日は浜松市の市制記念日で、8月21日は静岡県民の日なので来所いただいた全ての方が入所料無料となります。



全ての方ですか!?県民の日と言うと、県民の方だけが対象となるイメージですが…。



気賀関所では県内・県外の方に関わらず全ての方が対象です。



それは凄いですね!無料なら行こうかな、と思う方もいらっしゃると思うので、まだ訪れたことがない方はそういった時を利用して訪れてみるのもいいですね。



9月に月見の会を開催し普段開所していない17時~19時過ぎの時間帯に開所をし、音楽を演奏していただき、秋の夜長を楽しんでいただけるようなイベントを実施しています。毎年80名ほどの方にお越しいただき、とても賑わっています。11月には関所祭りがあります。こちらも入所無料で開放し多くの方に来ていただいています。隣の田園空間博物館ではマルシェも行っており三世代で楽しんでいただけるイベントとなっております。最近始めたイベントとしては、2月の節分福豆撒き会があります。この遠州地域は豆と一緒にお菓子を撒く風習がありますので関所内の本番所から豆やお菓子を撒くイベントを行っております。親子連れの方にとても人気です。
<月見の会の写真※写真内に「月見の会」と記載>





とても色んなイベントを考えられているんですね!お子様と一緒に楽しめるのは貴重な体験になりますし、とても魅力的です!



普段はご高齢の方が多いのですが、将来を担う若い世代の方にも興味をもっていただきたいので、若年層の方に目を向けていただけるようなイベントも考えて実施しています。



本当にここでしかできない体験がたくさんで、ぜひ一度行ってみたいです!先ほどの牢屋のお話がありましたが、他の関所と違う部分は他にありますか。



取り立てて珍しい部分があるというわけではないですが、全体的にコンパクトでとても見やすい関所だと思います。呈茶サービスもありますのでおいしい抹茶を飲みながら自然豊かな奥浜名湖でゆっくりとした時間をお過ごしください。





当時の設計図がよく残っていましたね!それが驚きです!



そうですね。現在の気賀関所の建物は1990年に復元されたものです。竹下元総理の時にふるさと創生事業金というものが自治体に配られ、その事業金でこの町は何をして町を盛り上げようかを考え、細江町は歴史文化のある町なので、それに関連することにしようと計画されたようです。その頃にちょうど当時の関所の設計図が出てきたため、空いている敷地に関所を復元しようと計画が進み、現在の気賀関所が建てられました。ですから当時あった場所とは違っていまして、元あった関所の場所は現在の場所から東側に600mほど歩いた所にあります。気賀四ツ角という場所があり、その付近に本番所の瓦のみ残っている状態です。四ツ角の付近は西側に井伊谷川、南に都田川、北には山があり、非常に逃げにくい場所でした。そういったことを意識して建てられたと考えられます。



当時あった関所はしっかりと場所を考えて建てられていたんですね。入所料もとてもリーズナブルで気軽に来られる場所ですね。



そうですね。入所料は70歳以上無料(証明書提示)、高校生は学生証提示にて無料、障害者手帳提示にて無料、付添の方も無料となります。歴史を学びながらお抹茶も楽しめる場所です!関所の隣の田園空間博物館では地元の野菜や果物、切り花、苗など、ちょっとしたお土産もあり楽しんでいただける施設となっています。関所にお越しの際は併せてお立ち寄りください。
関所破りが黙認されていた!?厳格な関所にあるまじきエピソード。



では、関所にまつわるエピソードなどはありますか。



少し調べたところ、伊勢神宮へのおかげ参りの際に関所破りが黙認されていたというお話がありました。



関所破りですか!?関所破りと言うと当時はとても重罪ですよね?



そうですね。磔や島流しに遭ったという話もあります。ですが、気賀関所では伊勢神宮へのおかげ参りが流行した際、神宮へのおかげ参りの時だけは…と、黙認していたそうです。黙認した後、周辺の村々を叱責したそうです。厳格な関所だったと思いますが、おかげ参りが流行った時期だけは黙認していたそうです。



それだけお伊勢さんは特別な存在だったということかもしれませんね。



他には、慶長10年に起こった火災で気賀の町がほとんど焼失してしまうのですが、関所は被害を免れたそうです。当時関所の屋根は茅葺だったのですが、火災後何度も茅葺の屋根を瓦葺に改修するお願いを出していたそうです。ところが「権現様(家康)の時には茅葺であった」という理由で却下され続けたそうで、その後100年以上が経過してから瓦葺となったと言われています。



それだけの理由ですか!?やはり将軍の存在は大きかったんですね。



そうかもしれません。他に「犬くぐり」というエピソードもあります。気賀関所は街道の真ん中に建てられた関所だったので、住民でも手形が必要なほど厳格な関所でした。ですが、通るたびに手形を出し荷物を調べられることは、住民にとって非常に面倒でした。そこで関所の抜け道が造られたそうです。関所の裏にくぐり戸を設けて筵を垂らし、犬のように這って通ることができるようにしていたと言われています。「犬なら構わない」と黙認されていたそうですが、様々な資料を読んでみたところ、やはり設立当初はとてもそういったことが許されるような状況ではなかったようです。ただ、色んな方が推測するに関所が衰退する明治初期くらいの話ではないかと言われています。徳川によって保たれていた時代が終わり、関所も段々と廃止されます。そういった関所の役割がほとんど効果を持っていなかった時期ならあり得る話かもしれないと言われています。



なるほど。確かにお話を聞く限り、厳格な関所でそんなに関所破りが黙認されていたとは考えにくいですよね。ですが、そういったハッキリとしない部分も含めて面白いのかもしれませんね。



そうですね!歴史の背景を知るとより面白い施設だと思います。そして多くの方に当施設を楽しみながら見ていただけるようにワードパズルを作成しお客様からご好評の声をいただいております。イベント開催時などに、できますのでぜひ参加してみてくださいね!



この場所でどんな事が行われていたのか、どんな役割を持っていたのか、ぜひ知ってほしいですね!
今後の展望
今後も幅広い世代の方にたくさん利用していただけるよう、様々なイベントを実施しホームページやSNSでのPR活動を続けていきたいと考えています。
また、多くの学校で総合的な学習や社会科の授業の一環として利用していただき、地域の方に歴史や日本文化への理解を深めてもらえれば嬉しいです。この先も地域観光の拠点として地域経済の活性化を促す施設でありたいと思います。
インタビューまとめ
令和の世から遡って約400年前。徳川家康によって全国に設置された関所。それは江戸の平和を守るための場所であり、その後200年以上続く江戸時代の秩序を確かなものにするための場所でもありました。教科書では深掘りする機会が少ない関所ですが、今回お話をお聞きして決して入りにくい場所ではなく、むしろ気軽に歴史を学べる場所だという印象を抱きました。
特に気賀関所では、家族で楽しめるイベントも多く開催されとても活気ある場所だと感じました。教科書の上だけで学ぶ江戸時代ではなく、実際にその時代を疑似体験することで学べることもきっと多いと思います。いつ来ても楽しめるこの気賀関所で、400年前にタイムスリップしてみませんか。
気賀関所 アクセス情報
住所:〒431-1305 静岡県浜松市浜名区細江町気賀4577
TEL:053-523-2855
FAX:053-523-2855
開館時間:9時~16時30分
休館日:年中無休 ※年末年始は休館とさせていただくことがございます。
公式サイト:https://kigasekisho.com/
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