「日本書紀」「古事記」。日本の神話を描く書物として有名なこの二書は、古くからアマテラスなどの神様の伝承を伝えてきました。
そんな神話の世界観そのものを体験できる場所、宮崎県高千穂町にある天岩戸神社。神話の世界とリンクするこの地にまつわる伝統をお聞きしました。
天岩戸神社とは
太陽神として有名な天照大御神、その弟である須佐之男命。須佐之男命は大変ないたずら好きで、あまりのいたずらぶりに天照大御神は怒り「天岩戸」という洞窟に隠れてしまいました。太陽神である天照大御神が隠れてしまったため、世界は真っ暗になり食物の不作や病人が増えるなど混沌とした世の中になってしまいました。その天岩戸洞窟を実際に見ることができるのが、この天岩戸神社の西本宮です。その後、八百万の神々の力により洞窟から出た天照大御神が最初に住まわれたと言われているのが東本宮です。
まさに神話の舞台そのものを味わえる稀少な場所。神社ではこの神話をご存知ない方のために、来られた方には全容の説明なども行っています。
天岩戸神社【特別インタビュー】
伝承と共に歩んできたこの地で、その風景を守る天岩戸神社。
その歴史と今も残る伝統行事、そして神社の未来について宮司様へお話を伺いました。
長き歴史と、神への深き敬愛が根付く街。
この神社の歴史はどこまで遡ることができるんでしょうか。
いつ神社として成立したのか、詳しいことはあまり分かっていないんです。天照大御神の伝承は約2800年ほど前のお話しですが、いつ頃から太陽神として祀られ始めたかというのも不詳ですし、洞窟も同様で、いつから信仰の対象となっているのかははっきりしていません。東本宮は、元々天照大御神が住まわれていた場所ということですから、何かしら建物はあったと思いますがそれを神社と呼んでいたかは定かではありません。ただ、江戸時代の文献には神社としての記載が残っているそうなので、その頃には神社として成立していたのではないかと思います。
遡るのが難しいほど歴史があるということですね。そういった神話の舞台となった場所ですから、地元の方にとってもやはり特別な場所なんでしょうか。
そうですね。この神社が、というよりは高千穂町が全体的に神話の街という雰囲気なので地元の方は観光の方に比べて神様を敬っている方が多いかもしれません。
たとえばですが、バーベキューなんかでお酒を飲みますよね。その時、飲む前に一度地面にお酒をこぼして地の神様にお供えしてから飲む、というような慣習が普通にあるんです。見えないものを重んじるという傾向が強いかもしれませんね。
なるほど。神社には地元の方も多くいらっしゃいますか。
ええ、来られます。神楽を習っているお子さんも多いですし、やっぱりこの町自体が神話の地ですからそこから離れるのは難しいです(笑)。西臼杵は町全体で神様を大切にしていると言えるんじゃないでしょうか。
鳥居に見る、100年の歳月。
では、他にこの神社の特徴的な部分はありますか。
そうですね、たとえば鳥居でしょうか。他の神社では角材を使っていらっしゃる所が多いと思いますが、天岩戸神社では丸太そのものを鳥居の柱として使っているんです。
丸太をそのままですか!?
ええ。おそらくですが、昔は製材せずに丸太のまま使っていたんだと思います。
その名残として今もそういった造りになっているんだと思いますが、使う木も樹齢100年超えのスギの木などで、高さも7~8mほどあるんですね。木材を注入する機械の限界ギリギリの長さなので大工さんたちはかなり苦労されると思います。
それは確かに大変そうです。その分見応えがあって荘厳さもありそうです。
それはそうかもしれませんね。他にはあまりない特徴的な部分だと思います。
神楽で語る、神への感謝。
他に、伝承にまつわるような行事などはありますか。
最近では11月に行われる神楽は見に来られる方も多いですね。
具体的にどんなイベントなんでしょうか。
10月の稲刈りが終わった後、その稲を使ってしめ縄を作り四方を囲います。その中で神楽を舞うことで神様に祈願をしたり、感謝の意を表す行事です。演目が全部で33番まであり、最初の演目では神様へお願い事をしたり感謝の神楽を舞いますが、28番目くらいから岩戸開きという演目が始まり、天鈿女命が岩戸の前で舞をして隠れてしまった天照大御神を誘い出すという、神話の内容を再現するんです。
本格的なイベントなんですね。それは丸一日かけて行われるんですか。
そうですね、11月の最初の日曜の朝10時~夜10時まで行っています。
それが終われば、西臼杵の各集落で夜通し神楽を舞う夜神楽というものもあります。夜7時~翌朝の11時頃まで通してやるんですが、だいだい30カ所くらいの集落で行われていると思いますよ。
まさに地域を挙げての大イベントですね!それを見に来られる方も多いと。
ええ、最近は増えてきました。通常のお祭りですと5月と9月に神社の例祭があり、それは地元の方が御神輿を出すなど地元のためのお祭りという感じです。
今後の展望について
では最後になりますが、今後の展望はありますか。
そうですね、こういった神話にまつわるような神社はあまり俗的な事はしない方がいいと考えています。普通は目立つようなイベントを行う方が集客には繋がりますが、こういった特別な場所はより神話に近づけるような、自然のままを保つことが大切だと思っています。そうすることで、自然と人が訪れる場所になると思います。それから今、東本宮の方が無人なので今後は御守りを出す場所などを作って人を常駐させて、綺麗な景観を保っていきたいと思います。
神社のイベント
12月の冬至の日に行われるしめ縄神事。天岩戸のご神体にかけられている20mのしめ縄をプロの登山家の方々が山の中腹まで下りて張り替えるそうです。令和2年から始まった、まだ新しい行事ですが壮観な光景となり見に来られる方も多いそう。
他に、畳投げというイベントも。手力男命という神様が岩戸を投げ飛ばしたという神話にちなみ始まったもので、しめ縄神事の際に小学生や観光客の方に挑戦してもらっているそうです。女性の方も参加しやすいよう、半畳の畳も用意されています。
「伝承の地」を色褪せないものにするため、神社ではもちろん地域全体で神話の世界観を守っていこうという意識が感じられました。人の手を加えて刷新していくのではなく、当時のままを残す。それがこの地に暮らす人々の使命であり、その風景が誇りなのかもしれませんね。
アクセス
宗教法人 天岩戸神社
住所:〒882-1621 宮崎県西臼杵郡高千穂町大字天岩戸1073-1
TEL:0982-74-8239
社務所:8:30~17:00
URL:https://amanoiwato-jinja.jp/