神社への参拝を楽しむ、という気持ちで訪れている方はどれくらいの数いるでしょうか。神様へご祈願する場所で楽しむって、少し不謹慎かも…。神社はそういう場所ではない、と思われる方もいるかもしれません。
ですが、この川越氷川神社は「楽しめる」神社です。特徴的なおみくじや授与品、シーズンには素晴らしい光景を見せてくれるソメイヨシノの桜並木など数え切れないほどの見どころがあり、参拝はもちろん、ふらっと立ち寄るだけでもその魅力が分かる神社です。その楽しみ方について、たっぷりとご紹介します。
川越氷川神社とは
約1500年前に創建された川越氷川神社。都心にほど近いこの川越市は車でも電車でもアクセスの便が良い町として知られ、多くの観光客で賑わう町です。ご祭神は素盞嗚尊(スサノオノミコト)を始め家族の神様をお祀りしていることから、家庭円満などのご利益があることで知られています。境内は美しい彫刻が施された本殿をはじめ、様々な社殿や、色とりどりの植栽など目で見て楽しめる境内となっています。
例大祭である川越氷川祭をはじめ、涼し気な雰囲気を味わえる夏の「縁むすび風鈴」や、七夕祭、年末年始などこの神社ならではの神事も多く執り行われています。地域と一体となって行うお祭りは非常に活気のあるもので、地域の季節の風物詩となっています。創建当時から町を見守り続け、時代と共に変わる景観を眺めてきました。1500年以上の長い間、多くの方の手によって守られ支えられ、そして神社に鎮座される神様が町を守ってきた、町と神社がお互いを思う関係を築いてきました。
【川越氷川神社 特別インタビュー】
神社へ来たら、神様にお参りをしておみくじを引いて御守りを買って帰る。そんな流れをイメージする方は少なくないと思います。この氷川神社ではそのいずれの瞬間も楽しむことができます。
さらに神社内での楽しみだけでなく、神社を起点として川越の町歩きを楽しむこともできます。神社へ来たこと自体が特別な思い出になる、そんな貴重な神社の魅力をお届けします。
”家族の神様“を祀る、家庭・夫婦円満、縁結びの神社。

こちらは埼玉県川越市に鎮座されている神社様ですね。失礼ながら私は埼玉県を訪れたことはあるのですが、川越市は未踏の地でして…。まずは川越市がどんな町であるかを教えていただけますか。



はい。川越市は埼玉県の南西部に位置し、人口は30万人以上の都市です。都内からのアクセスも良く、池袋から電車で1本、新宿から1本で来ることができるとても利便性の高い町です。国内観光の方はもちろん最近では海外からの観光客もよくお参りいただいています。ただ、東西に走る鉄道が少ないので、同じ県内でも東の方に住んでいる方は「川越は行ったことがない」という方もいるようです(笑)。



なるほど!その感覚はちょっと分かります(笑)。では、こちらの神社様の歴史についてお聞きします。創建はいつ頃になるのでしょうか。



創建は約1500年前、欽明天皇2年(541年)です。神社創建には川が関係しています。神社の裏を流れる入間川(いるまがわ)という川があります。その昔、その川底が毎晩キラキラと光り輝き、光の元を辿ってみたところ、現在の神社の場所に辿り着きました。当時の村の長が身を清めて光の元に訊ねると、「この光は氷川の神様のご霊光である」というお告げがあり、川越氷川神社がお祀りされました。



不思議なご縁ですね。では、お祀りされている神様についてお聞きします。主祭神は有名な素盞嗚尊(スサノオノミコト)ということですが、そのお妃である神様もお祀りされているんですね。



そうです。素盞嗚尊のお妃である奇稲田姫命(クシイナダヒメノミコト)、その子孫と言われている大己貴命(オオナムチノミコト)、そして奇稲田姫命のご両親である脚摩乳命(アシナヅチノミコト)と手摩乳命(テナヅチノミコト)というご家族の神様をお祀りしています。大己貴命は色々な名前を持つ神様として知られ、もっとも有名なのは出雲大社の縁結びの神様として知られる大国主命(オオクニヌシノミコト)です。家族としての神様をお祀りしていることから、当社は家庭円満、夫婦円満、縁結びのご利益がある神社として信仰されています。



お妃の奇稲田姫命という神様はどういった神様なのでしょうか。



奇稲田姫命は有名な八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治のお話に出てくる神様です。素盞嗚尊が日本を旅する中で、8つの頭を持つと言われる大蛇「八岐大蛇」に苦しめられる集落に立ち寄ります。そこで、大蛇の生贄にされそうになっている奇稲田姫を助け、共に大蛇を退治し、ご結婚された神様です。



そういった背景でしたか。八岐大蛇のお話は何となく知っていましたが、詳しく聞くと面白いですね!
アイディアに富む取り組みで、参拝も町めぐりも楽しく。



では、この神社で見るべきポイントや特徴的な部分はどういったところでしょうか。



県の重要文化財に指定されている本殿は全面に緻密な彫刻が施されていてとても見応えがあります。本殿ですので、間近でご覧いただくことはできないのですが、柵越しでもその凄さは分かっていただけると思います。他には、御神木である2本のケヤキの木があります。この2本は寄り添うように立っており、昔は結婚式を挙げるご夫婦がその御神木の間を8の字を描くように願いを込めて歩いた、というお話を聞いたことがあります。絵馬のトンネルにはたくさんの願い事が書かれた絵馬が結ばれて、とても神秘的で壮観な光景です。また、おみくじも当社ならではのものがあります。







おみくじですか?何か特徴的なものなのでしょうか。



いくつか種類があるのですが、とくに鯛みくじは多くの方に楽しんでいただいています。釣竿で鯛を釣るイメージで鯛の張り子を釣りあげていただくとその鯛の尻尾におみくじが入っているんです。普通、おみくじは自分の手で狙ったものを掴みに行くというイメージですが、この鯛みくじは釣るという行為によって、狙ったものとは違うおみくじが引っかかります。そういった自分の意思とは違う、目に見えない力によって自分とおみくじの縁が結ばれるということで、そこに神様の意志や力が働いているのかなと考えています。





なるほど!見えない力によって引き寄せられる運、とても面白いですね!



他に「川越いもみくじ」というおみくじがあります。川越はさつまいもの名産地でもあり市内を散策するとお芋を使った商品や製品などが食べ物を含めてとても多いんです。12月1日は「川越芋の日」に設定されているほどです(笑)。そういった縁から、その特産品にちなんでお芋のおみくじを奉製しました。このおみくじは川越市内の企業団体のみなさんで協力して奉製されているおみくじなんです。「川越いもの子作業所」という障害者自立支援施設があるのですが、そこで障害を持たれている方が仕事として芋の張り子を作ってくれているんです。企業などが使用済みの牛乳パックを提供、それを煮詰めて糊を入れ紙粘土を作ります。それを芋の形に成形し色を塗っていきます。障害を持たれている方の中には、形作るのが得意な方もいれば、色塗りが得意な方もいて、完成した芋の張り子を見ると、1つ1つに個性が表れていて面白いです。そういった施設の方にご依頼することで社会貢献や地域産業の振興の一助となることを願っています。





地域の方と一緒に作り上げているというのは、素晴らしい取り組みですね!



ちなみに「川越いもみくじ」にはもう一つ特徴があり、普通のおみくじは大吉・中吉などですが、このおみくじには、もう一つ別に番号札が入っていて、専用の引き出しの中から、番外編のおみくじを引くことができるんです。



Wおみくじですね!とてもご利益がありそうです(笑)



この番外編にはお芋に関する知識やラッキー芋アイテムが書かれています。川越の町中を観光する際にラッキー芋アイテムを探しながら観光されるのもまた違った面白さがあると思います。



ラッキー芋アイテム、いいですね!お芋嫌いな方はいないと思うので(笑)どなたにも楽しんでいただけますね。



神社だけでなく川越観光と合わせて楽しんでもらえれば私たちも嬉しいです。また、おみくじではなく御守りなのですが、「赤縁筆(あかえんぴつ)」という授与品があります。キャップと鉛筆に男の子と女の子の絵が描かれているのですが、その2人が赤い糸で結ばれているんです。鉛筆は使えば使うほど短くなりますよね。そうなるほどにキャップと鉛筆が近づき「赤い糸」が短くなり2人が近づく、というデザインなんです。





なんて素敵な御守りなんですか!神職の方はそんなにアイディアマンな方が多いんでしょうか!?とても思いの籠った御守りで感動します…。



これは参拝者にも人気です。他には組紐で結ぶ御守りもあります。



組紐…とはどういうものでしょうか。



紐の結び方には蝶結びなど様々な結び方がありますよね。そういった色んな結び方を組み合わせて御守りにしたものです。1本の組紐を神職が結び12ヶ月分を毎月の神事をイメージした形に整え奉製しています。





すごいですね!お忙しい中でそれだけのことをされているとは…。訪れる方に楽しんでほしい、神社のことを知ってほしいという思いがとても伝わります。



神社にお参りに来てよかったと感じてもらえると嬉しいです。当社で結婚式を挙げられた方から聞いたお話ですが、毎朝8時から20体限定で出している「縁結び玉」という御守りがあるのですが、これはこの神社に昔から伝わる「境内の小石を持ち帰り大切にすると良縁に恵まれる」と言い伝えにちなんだ御守りです。その縁結び玉を受けた方がいいお相手に巡り会えたようで、その彼に縁結び玉の話をすると、何とお相手の方も同じ縁結び玉をお持ちだったようで、2人は同じ神社にお参りをして同じ御守りを持って結ばれたというお話を聞いたことがあります。





ドラマよりドラマみたいなお話ですね!本当に感動します。もしかするとお守りを授かったときにお会いになっていたかもしれませんよね。他の神社さんではお聞きしないお話ばかりでとても面白いです!おみくじが1つ1つ手作りというのが凄いです。おっしゃるように見た目にも個性が出ますし、とても可愛らしいですね。他に見どころはありますか。



神社の北側を流れる新河岸川の川沿いには桜並木が広がっていてソメイヨシノが300本ほど広がっています。4月時の上旬など桜が見頃の季節には本当に綺麗で、川越市内の桜の名所の中でも有名な場所です。





300本ですか!それはなかなか見られない光景ですね!お花見シーズンは人出がすごそうですね!



そうですね。桜を眺めながら川沿いを歩くのもいいですし、その時期には和舟も出ているので川面から桜を見上げるという貴重な体験もできます。いつもとは違った景色を楽しめるので、いつもチケットは即完売のようです。





川から眺める桜、とても風情がありますね。なかなかできる体験ではないので行列に並ぶ方の気持ちはとても分かります。桜のシーズンのお写真を拝見していますが、これは素晴らしいです!桜の絨毯がとても美しいですし、これは人生で一度見てみる価値のある光景だと思います!



ありがとうございます!桜の季節は本当に多くの方で賑わうので、ぜひ遠方からでも足を運んでみてほしいです。
彫刻に7年。ここならではの壮観な境内。



では、神社建築や周辺景観についてお聞きします。ぜひ見てほしい特徴などはありますか。



やはり一番の見どころは県の重要文化財に指定されている本殿です。本殿は今から約170年ほど前、江戸時代後期に建てられたもので、完成まで8年を要しました。全面に見事な彫刻は施されておりなんと8年の工期のうち7年をその彫刻に費やしたそうです。



7年を彫刻にですか!?それは…本当に壮大なものですね。



関東彫、別名を江戸彫と言われる彫り方で彫られており、特徴の1つとして色彩を施さない、つまり色を塗らないという特徴があります。ただ、その分近づいてよく見ると木目を上手く捉えて彫刻に活かしています。たとえば、人物彫刻を施す際に、木の年輪の部分を頬や膝頭、肘などの部分に持ってくることで、ふくよかさや立体感を演出します。光が走っているような斜線の彫刻を施すのであればそれに沿って木目を走らせるなど、色彩を施さない代わりに木の模様を上手に使い緻密な模様を描き出しています。





確かに彫刻と聞くと色鮮やかで絢爛豪華なイメージを持ちますが、そういった彫刻もあるんですね。ぜひ見てみたいです!



実はこの彫刻を施したのは日光東照宮の陽明門に彫刻を施した嶋村家という彫師の末裔の方です。江戸でも随一の腕を誇る彫刻家だったようです。



とても興味が湧いてきました!仰ったように本殿なので間近で見るということは難しいと思いますが、立ち寄った際にはぜひ目にしてほしいですね!お写真を拝見していますが、確かにこれはとても緻密ですね。7年の歳月を要したことがよく分かる緻密さです。



他には境内に八坂神社という神社があるのですが、この社殿は元々江戸城内にあった東照宮が空宮になり川越に移築された社殿なんです。江戸城内にあった宗教的建造物として、大変貴重なものであります。



そんな貴重な建物も残っているんですね!先ほどのおみくじなどのお話もそうですが、本当に見るべきポイントがたくさんで一度では回り切れなさそうです(笑)。インスタグラムも拝見していますが、大鳥居もとても立派ですね!



大鳥居は平成の御代替わりを奉祝し、建てられたものです。高さは約15mで木製の鳥居としては、日本最大級の大きさを誇ります。


地域に溶け込み、日常の景色となる町の氏神。



では、地元の方との関わりについてお聞きします。地域の方と共同で行われている行事や一般の方が参加できる行事などはありますか。



行事というわけではありませんが、地元の方に昔から親しまれている要因の一つとして神前結婚式があります。隣接する氷川会館では披露宴を挙げることもでき、昔から川越に住んでいる方はご自身も氷川神社で結婚式を挙げられて、そのお子さんも氷川神社で挙式を、という方も多くいらっしゃいます。そのご夫婦にお子様が授かればお宮参りや七五三など人生の節目を神社で祝う。まさに人生儀礼と呼ばれる家族の節目を見守る神社であります。



地域の氏神様として愛されている神社さんなんですね。子どもの頃は意識していませんが、振り返ってみると神社にお世話になる機会というのは意外と多いですね。大切な場面に立ち会えるというのは神社ならではの喜びかと思います。



他にも、周辺住民の方が朝のお散歩に来られたりラジオ体操帰りの談笑の場として過ごしたり、ランニングされている方のコースの1つになっていたりと本当に地域の方の日常の中にある神社だと感じています。



暮らしの中に溶け込んでいる神社ですね。そこにあることが当たり前というイメージなのかもしれないですね。
町と一体となる例大祭、風を知る風鈴祭りも。



では、神社での行事についてお伺いします。この神社ならではの行事など、特徴的な行事はありますか。



一番大切なのは例大祭でもある川越氷川祭です。毎年10月14日・15日の2日間行われるものですが、神社と町が一体となって行うお祭りなので神社にとっては非常に大切なお祭りです。川越氷川祭は川越城主であった松平信綱公が「これほどの町に祭がないのは非常に残念だ」と仰られ、氷川神社にお神輿や獅子頭、太鼓などの祭礼道具を寄進してくださりそこから始まったお祭りです。川越氷川祭(川越まつり)の期間は、市内をたくさんの山車が巡行しますが、巡行経路の中で、必ず氷川神社まで山車を曳き、参拝しお囃子を奉納する町内が多く、地域と一体となったお祭りであると感じています。





とても活気がありそうですね!見に来られる方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。



川越市が市政100周年を迎えた年には2日間で90万人ほどの人出があったと記憶しています。



90万人ですか!すごい数ですね。なかなかそれだけの人数の方が一気に集まる機会もないと思いますのでとても盛り上がりそうですね!



他には、夏の期間限定で「縁むすび風鈴」という祭事が行われます。初めは末広がりの意味を込めて888個の江戸風鈴を境内に飾っていたのですが、段々と数が増えて今では約2000個の江戸風鈴を飾っています。



2000個ですか!?それは凄い数ですね。ですが、風鈴は見た目も涼し気ですし、何よりその音がいいですよね。



「風の便り」という言葉があるように、昔の日本人は、人の想いや気持ちを「風」が運んで、神様や遠く離れた大切な人に届けてくれると信じていました。その目には見えない「風」を音で私たちに教えてくれるのが「風鈴」なんです。風鈴には、願い事を書いた短冊を吊るすことができますので、結んだ風鈴が風に吹かれて「チリン」となったら、願いが神様に届いた合図かもしれません。





とても素敵なお祭りですね。仰ったように目に見えない風を教えてくれるのが風鈴の良さですよね。最近では家に飾っているというご家庭も少ないと思いますが、音を聞くだけで爽やかなきもちになりますし、見た目も可愛いですよね。
今後の展望
1500年の長い歴史の中で、歴代の宮司を始め様々な方が神社を守り続けてこられました。神に仕える神職は野球で言えば常に中継ぎ(リリーフ)のような存在です。次の世代にバトンを渡していく役割を担っているので、この先100年、200年、1000年とこの神社が今と変わらず地域の方に愛される神社であってほしいと心から願います。
コロナ禍を経て様々なことが変わりました。長年続いていた昔ながらの伝統や文化を失ってしまったところもあります。一度築いたものを失うのはあっという間で、それをまた復興させるには大変な熱量が必要になります。どうかこの先も、この神社が穏やかな時を刻み続けてくれることを祈っています。
インタビューまとめ
神社の方にお話をお聞きして、神社内で実施されている取り組みにあんなにも感嘆の声が出たのは初めてでした。おみくじや授与品のアイディアには本当に脱帽する思いで、いつか必ず訪れてみたいと強く思える神社様でした。
例大祭や各種の行事などを地域の方と共に行っている神社様は少なくありませんが、神社のおみくじを地域の方と一緒に作ったり、街歩きを楽しめるようにとおみくじを作られている神社様はなかなかないと思います。そのどれもが「楽しそう!」と思えるものばかりで、神職でありながら次々にそうした新しいアイディアを打ち出されているその姿勢は本当に素晴らしいと感じました。
美しい桜並木は春にしか出会えませんが、神社での楽しさは一年中味わうことができます。関東に行かれた際には、都心からのアクセスも非常に良いこの川越の地に足を運び、ぜひ川越氷川神社に立ち寄り川越という町そのものを満喫してほしいと思います。
川越氷川神社 アクセス情報
住所:川越市宮下町2-11-3
TEL:049-224-0589
<アクセス>
最寄り駅:JR・東武東上線「川越駅」、西武新宿線「本川越駅」
※最寄駅からはバスをご利用ください
※お車でご来社の方は近隣のコインパーキングをご利用ください
URL:https://www.kawagoehikawa.jp/
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