仏教において智慧(ちえ)の仏様として知られている文殊菩薩様。「三人寄れば文殊の知恵」の文殊はこの文殊菩薩様のことです。そんな文殊菩薩様より智慧を授かる瑞夢を見られた聖武天皇の勅願がきっかけとなり開山された竹林寺。724年の建立以来、五台山の同じ場所でこの地を見守り続けてきました。「お遍路さん」で知られる四国霊場八十八ヶ所の第三十一番礼所に定められる寺院でもあり、日々多くのお遍路さんが足を運んでいます。
五重塔や一言地蔵など特徴的な建造物やお地蔵様も境内に見られるこの寺院は、高知県内でも著名な寺院として人々に愛されてきました。現在でも続く地域の方との交流や寺院での取り組み、そして寺院への思いについてご担当者様に詳しくお話をお伺いしました。
竹林寺とは

聖武天皇の勅願を受けた僧・行基により建立された五台山 竹林寺。その名は中国にある同名の山と寺院より名づけられ、土佐の地に根付いてきました。寺院内には美しい庭園や土佐藩主が訪れた書院など、特徴的な魅力も多くあります。本堂へ続く階段は写真スポットとしても使われ、境内の各所に見られる植栽が季節の移ろいを知らせてくれます。国の重要文化財に指定されている建造物も多数あり、仏様をはじめ見どころが満載の寺院です。
地域の人々はお初まいりや七五三で参詣される方も多く、県内はもちろん四国の各地より結婚式の前撮りで利用される方も多数いらっしゃいます。
竹林寺 特別インタビュー
創建から1300年以上の歴史を誇り、明治の廃仏毀釈の流れにも負けず、伽藍の再建などが行われ現在も非常に見応えのある姿を見せています。寺院内で行われる「一休さん修行」などの行事の他、寺院はどうあるべきか、仏教を通して何を学んでほしいのか、住職様をはじめとする僧侶の皆様の思いをご紹介します。
「高い知恵」を語源とする土佐の地。1300年の時を見守る智慧の仏様。

ではまず、こちらの歴史や由来についてお聞きします。創建はいつ頃でしょうか。また、創建のきっかけについてお聞きできますか。



創建は神亀元年、西暦724年です。当時の聖武天皇が唐の五台山に登り、その地で文殊菩薩(もんじゅぼさつ)より仏教についての知恵を授かる瑞夢をご覧になりました。それを非常に喜ばれた聖武天皇は、僧侶の行基を呼び「中国にある五台山という山に似た山を日本国内で探し、そこに伽藍(がらん)を建立せよ」という勅願を授けます。行基はそれに従い国中を探し、この地を選定されました。それがこの寺院開山のきっかけと伝わっています。その後、江戸時代に入ると代々の土佐藩主の信仰を集め、藩主の祈願寺として繁栄しました。土佐の地でも随一の荘厳さを誇り、多くの僧侶が修行に集まる寺となりました。江戸時代末期、土佐の有名な「よさこい節」には、僧・純信(じゅんしん)という修行僧とお馬さんとの恋物語が謡われています。そして時代は流れ、明治時代に入ると廃仏毀釈の影響により、それまでの隆盛は一時衰えを見せましたが、その後伽藍の復興整備などが進められ美しい姿が蘇りました。



文殊菩薩様というのはどういった仏様でしょうか。



文殊菩薩様は智慧を司る菩薩として知られ、学業に関する祈願としても知られています。また当寺は四国霊場第三十一番礼所に定められている寺院でもあります。2024年は開山1300年を迎えたことから、御本尊さまの特別御開帳のほか、寺宝を展示する記念の催事などがありました。御開帳は50年に一度という竹林寺の決まりがあり、昨年はそれに該当する年ではなかったのですが、1300年という節目を記念し御開帳を行い多くの方がお越しになり、ご参詣いただきました。
文殊菩薩さまがお授けされる智慧とは、勉強ができる・受験に合格することだけを指すものではありません。困難に直面したときに問題を解決するちから、ゆく先の暗闇を照らす明かりのように先を見通すちから、「みちをひらく」ちから、とご理解いただければ宜しいと思います。



この土地とのつながりなどに関するお話はありますか。



高知県の名前の由来に関係しています。1600年に関ケ原の戦いで武功を挙げた山内一豊公が初代土佐藩主として入国し、大高坂山に新たに城を築くことを決めました。10年の歳月をかけ築城されたお城は、3本の川が合流する場所の少し川上辺りに築かれたため「河の中のお城」として「河中山城(こうちやまじょう)」と命名され、その城下町は現在まで続く町の端緒となりました。ですが、河川合流地にあったため城下では水害が多く、水と関係がある「河中」という文字は縁起が悪いとされ、2代藩主山内忠義公の時代に、「河中」(こうち)の字を廃し、智慧の文殊菩薩様にあやかり「高い智慧」という意味をこめて「高知」(こうち)と漢字を付け替え「高智山城」と改名されました。その後時代と共に名前から「山」が抜け、高智城と呼ばれるようになり、それが現在の「高知」となりました。



高知という名前にはそんな由来があったんですね!全く知らなかったので驚きですが、聞いてみるととても面白いですね!
昔も今も愛される、特徴的な境内と美しい庭園。





では、竹林寺の特徴や来られた方に、ぜひここを見てほしいという魅力的な部分はどこでしょうか。



そうですね、まずは本堂です。寺院に来られたからにはお参りをしていただきたいので、メインとなる本堂はぜひお参りください。当寺の本堂は文殊菩薩様をお祀りし別名・文殊堂とも呼ばれています。現在、当山に現存している最古の建造物であり国の重要文化財に指定されている由緒ある建物です。また当寺には名勝に指定された庭園もございます。最盛期の江戸時代には、土佐藩主も通われた寺院でした。美しい庭園は藩主にも親しまれ、参詣された際におもてなしをする場所として書院が造られました。現在、書院は国の重要文化財に、庭園はその美しさから高知県三名園の一つとされ平成16年(2004年)に国名勝に指定されました。通常のお参りであれば入山料などのお金を頂いてはおりませんが、書院と庭園に関しては文化財保護・護持運営のために、拝観料を頂いております。来られた方はその美しさを写真に収める方も多く、現代でも色褪せることなくその美しさを伝えています。寺院内は、一通りお参りし、ご覧になるなら30分、じっくりと時間をかけてご覧になりたい場合は1時間ほどを予定していただければ、回ることができると思います。





土佐藩主も一目置いていた寺院だったんですね!他に特徴的な部分はありますか。



山門に続く参道は景観がよく写真スポットとしても人気があります。50段ほどの階段があり登った先に本堂や当寺のシンボルでもある五重塔があるのですが、参道横に広がる苔や木々が季節毎に違った表情を見せてくれるため、春の桜シーズンや新緑の時期、秋の紅葉の時期には多くの方が写真撮影をされています。また、当寺に隣接した植物園がありその植物園と合わせて結婚式の前撮りなどで利用される方もいらっしゃいます。寺院内では和装を、植物園で洋装の写真など場所をあまり移動せずに違った雰囲気の写真が撮れるため人気のようです。また、結婚式だけでなくお子様の七五三やお初まいりなど人生の節目にお参りしていただける寺院です。地域の方のみならず高知県内、四国内から来ていただく方も多くいらっしゃいます。





先ほど、五重塔のお話が出ましたがこちらはどういった建物でしょうか。



実は当寺には元々三重塔があったのですが明治32年(1899年)の台風により倒壊の被害を受けました。以来、塔の再建を目標とし昭和55年(1980年)に現在の五重塔が完成しました。高さ31メートルの大きさを誇る当寺のシンボルとして認識されている建物です。



非常に大きな塔ですね!寺院内へ足を踏み入れると一番先に目に付く、まさに寺院のランドマークですね。





他に、この五重塔への階段を上がると左側に「一言地蔵」と呼ばれているお地蔵さまがいらっしゃいます。このお地蔵さまは「ひとつの願いを叶えてくれるお地蔵様」として知られており、それは「一生にひとつのお願い」という意味ではなく「一度にひとつのお願い」を叶えてくれるという意味です。たとえば「怪我をしてしまったので早く治りますように」というお願いをされる方、「もうすぐ生まれてくる子どものために自分自身もしっかりと長生きできますように」とお祈りされる方など様々なお願いをそのときに「一つだけ」聞いてくれるお地蔵様です。ご自身にとってなにが一番なのかをよく見定めてお願いをされるとよろしいでしょう。
県内随一の寺院として、地域との交流を大切に。



では、地元の方との関わりについてお聞きしたいと思います。この地域の方にとって竹林寺はどういった寺院であると思われますか。



自分たちで言うのはおこがましいかもしれませんが、高知県内では最もよく知られている寺院であると思います。先ほど申し上げたような人生の節目で利用していただく方も多いです。また、やはりお遍路される方がたくさん来てくださいます。



お遍路をされる方はやはり年配の方が多いのでしょうか。



そうですね、やはり一番多いのはお仕事を終えられたばかりの60代の方だと思います。他にも家のことは子どもたちに任せてご自身は旅に出て来られた70代・80代の方もいらっしゃいます。お詣りの方法としてお遍路ツアーの団体様が一番多いと思いますが、1200㎞のお遍路の道のりを歩いて旅されている方もお見受けすることがあります。その歩き遍路さんの中には、20代30代の若手の方々もいらっしゃるんですよ。





歩いてですか!?それはすごいですね…!



大変なことだとは思いますが、体力があるうちしかできないことでもありますし、その旅で見えてくるものもあると思いますので、貴重な体験ではないかと思います。



では、寺院で行われている行事についてお聞きできますか。



寺院での行事としては、多くの寺院様で執り行われているような年末年始や節分行事、お盆の供養の他、子どもたちが夏休みとなる8月には「一休さん修行」として小学生を対象とした寺院での修行体験を行っています。子どもたちにはアニメの『一休さん』に登場するような小坊主の恰好をしてもらい、寺院内の雑巾がけや瞑想などに取り組んでもらいます。寺院は学校でも家庭でもない特別な場所です。そういった場所でしか教えられないことを学んでほしいという思いから毎年開催しています。嘘をついてはいけないのはどうしてなのか、他人を思いやるとはどういうことなのか、暮らしの中でやっていい事・悪い事のお話をし、子どもたちなりに理解し日常の中で意識してもらえればと思っています。こちらに関しては予約制なので、事前にお申し込みが必要です。



ホームページではランドセル祈願も行っていると拝見しました。



そうですね、新一年生になる子どもたちを対象にまだピカピカのランドセルを一度お預かりし、子どもたちが学校へ向かう道中の安全や学校生活の楽しさなどを祈願しています。小さいうちは親や大人がいつでも付いて見守ることができますが、小学生になれば親の手を離れることが増えてきます。そんな時、日々の無事を祈る親御さんも多いと思いますので、寺院としても共に祈ることができればという思いです。
3つの役割を大切に、日々の中に仏教を見出す。





では、寺院は人々にとってどういう存在だと考えられていますか。



寺院の役割は「祈り・学び・集い」この3つにあると考えています。「祈り」は、文字どおり、様々な願いを込めて仏さまにお参りをし、その願いが成就するように祈ること。また、故人となった方を供養し後生を弔うことも同様に「祈り」に含みます。「学び」は、仏教を学ぶことや、日常の中で仏教由来とは意識せずに行われているものの背景を知るということです。たとえば、ご飯の前に「いただきます」と手を合わせるのは合掌ですが、これも仏教由来です。そういった日常の中にあるものの背景と仏教を結び付けて考えることで、仏教を身近なものとして感じられるのではないかと考えています。もちろん、仏さまの教えを学ぶことも大事なことですから、寺の行事や体験などの際には仏教について、お伝えしているんですよ。3つ目の「集い」については、かつては人が集う場としてお寺が利用されてきたことと、お寺が従来担ってきた冠婚葬祭の「葬祭」の部分に関係しています。これからも過去の歴史の上にあぐらをかくことなく、様々な場面で人々が集う場所でありたいと考えています。
今後の展望
2024年に開山より1300年を迎えた竹林寺。悠久の昔からこの地にあり続けてきた竹林寺は、現在も地域の方々と交流し、寺院としての役割を伝え続けています。
多くの人々が集まり、言葉を交わす場所として存在し続けること、そして訪れた人々に少しでも日常と仏教徒の関わりを感じてもらえること、そのきっかけになる寺院であり続けたいと考えています。
インタビューまとめ
今回、ご担当者様にお話を聞く中で、最も印象的だったのは仏教と日常との関わりについてです。普段意識はしていないけれど、言われてみるとその由来は仏教であることはとても多く、そういった日常に溶け込んでいるものの背景を知ることで仏教を身近に感じ、寺院を自身と関わりのある場所だと認識できるのではないでしょうか。
僧侶=お葬式で経を上げてくれる人、だけではなく何のために読経し、そこにはどんな思いがあるのか、寺院に携わる人々がどんなことを伝えたいのか、それらを少しでも考えることが仏教への入り口であり、自分たちの先祖に感謝する一歩なのかもしれません。
五台山 竹林寺 アクセス
住所:〒781-8125 高知県高知市五台山3577
<アクセス>
【公共交通ご利用の場合】
■JR高知駅からMY遊バスで26分
【お車でお越しの場合】
■高知自動車道高知ICから約20分
■はりまや橋から約20分
■桂浜(浦戸大橋)から約25分
※駐車場:100台(無料)
TEL: 088-882-3085
FAX:088-884-9893
URL:http://www.chikurinji.com/
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